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ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画のambiorixのレビュー・感想・評価

3.3
子持ちの主婦と閑職に追いやられたメガネ男ひきいるインドのポンコツ貧乏チームがアジア初どころか世界初、火星探査機の打ち上げミッションをたった一度のチャレンジで成功させてしまう…という奇跡の実話を実写化。監督のジャガン・シャクティは本作で長編デビューを果たした人ですが、メガネ男ラケーシュ役のアクシャイ・クマールや脚本のR・バールキをはじめ、名作『パッドマン 5億人の女性を救った男』の製作スタッフが多数参加しています。
主人公のタラは一見どこにでもいそうな普通の主婦。今朝も早くから家族の食事を作るなどして忙しなく働いている。そんな彼女が家事を終えて車で向かった先はインドの航空宇宙局、通称ISROだった…! という、現代においても男尊女卑や家父長主義の匂いが根強く残るインド映画のお約束をチラつかせつつ、それを見事に裏切ってみせたオープニングシーケンスで幕を開ける本作『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』は紛れもないフェミニズム映画だと言えるでしょう。冒頭に挙げたタラとラケーシュの他にも、子供がなかなかできないことを姑にいびられるヴァルシャー、普通車免許の取得に難儀するクリティカ、不倫をした夫の家を飛び出したはいいがムスリムゆえ住むところもままならないネハ、密かにNASAへの転職をもくろむプレイガールのエカ、迷信深い童貞パルメーシュワルに初老のぽっちゃりおじさんアナント…などなど、能力はあるもののうだつが上がらず、私生活でもいろいろな問題を抱えた女性率高め(8人中5人)のポンコツメンバーたちが一致団結し、それこそ本編のセリフを借りるならば、「夕飯の残りを朝食に使う」主婦のごとき奇抜なアイデアを次々と繰り出すことで宇宙開発史上に残るブレイクスルーを成し遂げていく。さしずめインド版の『ドリーム(Hidden Figures)』だ、ってな趣きの作品ですが、「ちょっと待って、こんなん絶対面白いに決まってますやん…」と思うでしょ? ところが、これがあんまり面白くない(笑)。
脚本の流れ自体はわりと王道なんだよね。たとえば新年一発目に見た同じインド映画の『サーホー』なんぞとはまるで違って話の筋に破綻らしい破綻はないし、丁寧でわかりやすくもある。ただし、ここからが第一の残念ポイントですが、これは実際に起きたお話を山あり谷ありの娯楽作品へとアダプテーションする際に作り手がしばしば陥りがちな穴でもあるんだけど、スペクタクルのでっち上げ方が致命的に下手なのね。基本的にこの映画でぶち上がる問題というのは「何かしらの困難が起きる→ちょっとした日常的な出来事からヒントを得る→解決」のプロセスでもって片付けられていくわけだけど、ためしに実例を挙げると「鍋の火が消えたのに揚げパンがカラッと揚がってる→この現象をロケットの燃料節約に応用しよう!」「街中で環境保全グループが抗議をしてる→ロケットに廃棄プラスチックを使おう!」「クッションにヨットの絵が描かれてる→ロケットのアンテナを帆のように立ててみよう!」といった具合で、よーするに伏線の張り方とその回収の仕方があまりにも雑すぎる。唐突なうえに拙速。一回ならまだしも一事が万事この調子なので途中でうんざりしてきちゃう。ちなみに本作最大のウリであるはずの奇抜なアイデアの提示、というのは驚いたことに全部このパターンで出てきます。そして第二の残念ポイント。先ほど脚本に破綻らしい破綻はないと書いておいてナンですが、明らかに失敗しているなと感じた箇所があって、それがどこかというと映画が第二部に入ってすぐのくだり。あそこは火星ミッションの予算が少ないながらもとりあえずは下りて、散り散りになったメンバーが再集結する、っていう本来なら感動的で激アツなシーンのはずだった。なんだけど、解散前のこのチームは特にさしたる実績を残しておらず、なんなら集まってすぐに解散を命じられた格好だったわけで、そんな連中が再び集まったところで感動のしようがない。なのに画面ではあたかも泣ける場面ですよとでも言わんばかりの演出がなされていて、チグハグ感が拭えなかった。一連のエピソードが実話通りなら申し訳ないんだけど、だったらそれこそ映画用に『ドリーム』レベルの大胆な脚色を施してもよかったんではないか。でもって最後の残念ポイントは、肝心要の火星探査機打ち上げシーケンスの盛り上がらなさ。とにかく絵面が地味。そのうえ、雨続きでロケットがなかなか打ち上げられなかったけどラストチャンスで急に晴れた、噴射器が作動しないけどもう一回やったらうまくいった、探査機が音信不通になったけど一度ブレーカーを落としたら元に戻った、などなど相変わらず取ってつけたようなスペクタクル展開が満載で、ことここに至っては探査機が火星の周回軌道上に乗ったことによる感動や達成感よりもむしろ「またこのパターンかよ…」という呆れ返った気持ちの方が先に来てしまった。
と、ここまでクソミソに貶してきましたが、フェミニズム映画としては悪くなかったんじゃないですか。とかく作り手のメッセージ性が上滑りしてしまいがちなその辺のアメリカ産フェミ映画よかよっぽどナチュラルなタッチで女性の連帯やエンパワメントを描けていたと思うし、なによりも女性メンバーたちが先頭に立って横並びで記者の間を歩いてくるあのラストシーンはたいへん素晴らしかった。ってなんだか小学生の読書感想文みたいであれですけど、褒めるところはここぐらいしかなかったかな。てなわけでこの作品、「インド映画は面白い映画ばかりでつまらないからたまにはいまいちなインド映画を見て安心したい!」なんという奇っ怪なニーズをお持ちの方にはおすすめです(笑)。
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