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戦ふ兵隊のバナバナのレビュー・感想・評価

戦ふ兵隊(1939年製作の映画)
4.0
なんと冒頭は、家を焼かれた中国の農民のドアップから始まる。
日本軍が中国奥地まで進行するのに、こんな何にもない田舎の村も焼き払っていたのかとショックを受けた。
しかし、この映画、大日本帝国陸軍が撮らせている筈なのに、こんなに中国人農民の目線でいいの?

中盤、前線の司令部の長回しの場面があるのだが、
上官が「……をお願いします」とか部下に言ってて、
これって、もしかしてこの部分だけ東京のセットで、俳優さんで撮影しているんじゃないかと思う位だったが、
現地の兵隊さんに、特別な事件があった日の再現をしてもらっていたらしい。

他にも、雄大な廬山の山々に木霊する人間が放つ銃声など、
所詮人間のする事など自然の前では微細な事に過ぎない、
と感じさせる編集など、
冒頭の農民の部分も含めて、編集がきれい過ぎてドキュメンタリーという感じはしない。

なぜ映像が美しく牧歌的なのかというと、軍部は民間人の撮影隊にウロウロされると邪魔なので、特別撮影を優遇してくれる訳もなく、
撮影隊は銃後を付いていくしかなかったので、戦闘シーンはほとんど撮れなかったらしい。
編集の妙により、正直、NHKで観た戦争のドキュメンタリーよりも、抒情的に感じた。

当時の大新聞も戦争翼賛報道をしていた時代に、よくぞここまでの編集を通したものだ。
この作品を観た軍部が、これでは『戦ふ兵隊』ではなく『疲れた兵隊』だ、という事でお蔵入りになってしまったらしい。

しかし、亀井監督はこの1年後、この作品ではなく富士山を題材にした作品で、霊峰・富士山を化学的に解説してしまったという理由で、治安維持法違反で終戦まで投獄された。
当時の日本って、やっぱり未開の地と変わらんかも。
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