MasaichiYaguchi

街の上でのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.3
約1年公開延期した今泉力哉監督の本作の舞台となっている下北沢は、私にとって演劇の街という印象が強い。
本多劇場、ザ・スズナリ、駅前劇場、下北沢「劇」小劇場等、一つ街に幾つもの劇場が密集し、更に劇団東京乾電池、THE SHAMPOO HAT、ナイロン100℃をはじめとした劇団も多数存在する。
勿論、主人公の荒川青が働く古着屋、この主人公に絡むヒロイン・田辺冬子が働く古書店、また登場する飲み屋やカフェも下北沢の街の一部で風景になっている。
下北沢には小田急小田原線と京王井の頭線が走っているが、これらの路線の主要駅である新宿、渋谷、吉祥寺という若者文化の街とは違う独特の色合いを持っているような気がする。
物語は下北沢で生活が完結している荒川青が恋人である川瀬雪に浮気された上で別れ話をされるという最悪の状況から始まる。
ここから青を軸にして彼に絡む、雪、古書店員の冬子、青に出演を依頼する美大生で自主映画監督の高橋町子、その映画の衣装係の城定イハという4人のヒロイン夫々の恋愛劇が繰り広げられていく。
この作品を観ていると恋愛にしろ、仲間にしろ、仕事にしろ、住む街にしろ相性があって理屈ではないのだと思う。
「好き」という感情は第一印象を含めて直感みたいなもので、相手、仕事内容、街の景観をはじめとした雰囲気が変われば、その感情も変わる。
この映画の中で交わされる恋愛話や友情とは的な話が如何にも今の若者気質を物語っているようで面白かったが、特に恋愛群像劇的要素の強い本作において出てくる〝修羅場〟が今泉監督らしいギャグに変換されていて、その場面では思わず吹き出してしまった。
ほぼ真横から捉えた青と4人のヒロインとの会話、その他のキャラクターのやり取りにおいても演劇的な台詞回しが感じられて、監督の下北沢に対する愛がそういった点からも感じられた。