木曳野皐

街の上での木曳野皐のレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
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初めて古くからやっている個人経営の映画館に入った。新潟は田舎なので映画館と言うとイ○ンシネマとかT-J○Yとか雰囲気もクソも無い所ばかりで行く気が削げる。
ビルの上じゃなくてどうしても“街の上で”上映してる【街の上で】が観たかったのである。
入るとそこには青い椅子がズラッと並んでいてこじんまりとしたイメージ通りの老舗の映画館だった。椅子が青い事に驚きつつ主人公の名前にピッタリの空間だな、と思った。
そしてポツンポツンと人が座る。街に灯りが灯っていく夕方の様で何故か温かくなった。【街の上で】パワーは凄いのである。

そして五月蝿すぎるブザー音の後、映画が始まった。
微睡んだ空間、主人公青くんが醸し出す個性的で庶民的で何処を見渡しても既視感があるあの感じ。既視感が無いと言えばあの警察官くらいだった。
行きつけのバーには【愛がなんだ】のポスターが貼ってあって、なんか“ぽいな”って思った。同監督作品だから、とかじゃなくて、本当にあのバーに貼ってあるんだろうなって思った。
今泉力哉節がキイテるなぁと思ったのは「街って変わっていくし無くなったりもするけど“在るから”変わるし無くなるんですよね」と言う青くんの何処か寂しげな横顔だった。
上映前、私が観に行った映画館では「今泉力哉監督の今作品の公開を記念して過去作である【退屈な日々にさようなら】を5月15日より公開致します、是非そちらもご覧下さい」と言うマイクを持った男性からのお知らせがあった。そして映画が始まる前の予告にも【退屈な日々にさようなら】が含まれていた。その予告の最後にも「存在していたから消える、生きているから死ぬ」といった今泉力哉節がぶっ刺さったのを覚えている。
今思えば、同監督作品【愛がなんだ】では「出会ったから別れ“られる”」「側に居たから離れ“られる”」的なそんなポジティブな意味があったのかもしれない。


私は試着もせずに買った大きすぎる古着屋の柄シャツをワンピースみたいに着て、おろしたてのヴィヴィアンの靴下にharutaのローファーを箱から久しぶりに出して行った。
小心者の私は、お気に入りを身に付けて強くなったつもりで意を決して入った映画館で街の人達を観た。あのポツンポツンと座った人達と今後交わる事がまたあったりするのかな、あの映画館に通ってればいずれ顔見知りになっていったりするのかな、などとちょっと帰り道のローファーのコツンコツンという音に胸を躍らせたりした。
そして何よりいつもはラキストのボックスを買うのに、ソフトを買った。
ソフトは少し不便で青くんの事ちょっと恨んだ。でもやっぱり好き、青くんの事。
“蒼”じゃなくて“青”な感じが君の素直さを表していて余計に好きだった。
木曳野皐

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