つかれぐま

街の上でのつかれぐまのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.0
21/5/19@UL吉祥寺#3

<遠回り>

若い頃、マニュアル見て「最短距離」を選んでいた我々バブル世代には、羨ましい豊かな時間。中間にあたるアラフォー今泉監督が見せてくれた草食世代が「遠回り」する話。

下北沢と井の頭線でつながる吉祥寺のミニシアターという鑑賞環境も本作に相応しく、笑いが漏れる劇場内には幸せな空気が。

恋愛でも友情でもない、名状しがたい関係を描くのが今泉監督の真骨頂だが、本作は特にそういう関係がいくつも登場し、それらの丁寧な描写に溢れる。登場人物が相手の話をきちんと聞く所作がいい。

若葉竜也の役名が「青」で、成田凌がアイコニックに登場する。これはどうしても過去作「愛がなんだ」との関連を思わずにはいられない。「愛がなんだ」でも、そんな「関係」が数組描かれていたが、主人公テルコと成田凌のそれの歪さが突出していて、良くも悪くも肯定感に欠ける後味だった。そこを語り直したのが本作なのかな、と。青、雪、間宮(成田凌)の三角関係の顛末がまさにそれかもしれない。

穏やかな空気感の中にも、人の死や、街の衰えといった負の匂いが確実にあった。2020年の某イベントの影響で街が変わってしまう前に、下北沢の空気をフィルムに焼き付けておきたい気持ちが伝わる。返還直前の香港の街を切り取った王家衛「恋する惑星」と同じだ。

時が止まってくれたら・・。
そんな思いが、ラストシーンの不思議なケーキに込められていたのかも。