みかんぼうや

街の上でのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
3.8
【下北の若者たちの言葉と言葉の交わし合い。淡々とした会話の中に見える独特の浮遊感。】

最寄駅から電車で8分。小学校の頃に通っていた学習塾、高校の頃に少しだけ通ったボクシングジム、大学生になって始めた人生初のバイトの焼き肉屋、社会人になって通い続けたスポーツジムやたまに見に行く演劇が催される劇場たち・・・いやいや、それ以外にも服を買いに行ったり、ちょっと気晴らしに出かけてカフェで本を読んだり、とにかく人生で一番足を運んでいる大好きな街、下北沢。そんな下北沢を舞台に繰り広げられる映画というだけで、オープニングから「あー、この場所!」「あそこのお店だ!」とテンションだだ上がりで視聴開始。

が、そのテンションとは対照的に序盤はかなり落ち着いた展開。日常的に見られる若者たちの会話の連続。主人公の荒川青を演じる若葉竜也のとてもナチュラルな演技をはじめ、登場人物たちがまさに下北沢の中で何気ない日々を生きている温度感がよく伝わってくる(ただ、何人かの演者の演技は結構棒読み感があって気になったが・・・)。その“日常さ”加減と言葉と言葉の交わし合いを見ていると、なんとなく「ジム・ジャームッシュが日本の若者の日常を描く映画を作ったらこんな感じになるのかな?」などと勝手に想像。

が、個人的に長回しの長めの会話主体の映画はそれほど好みではないので(ジム・ジャームッシュもあまり・・・な人なので)、大好きな下北が舞台で映画全体の雰囲気も心地よいものの、中盤あたりからやや退屈で辛い時間に突入・・・

と思ったところからの終盤の彼氏彼女のバッタリ顔合わせシーン!ここで作品の色合いが、それこそ“下北の小劇場の演劇”的なものに変わり、登場人物たちの関係性とコミュニケーションの少しのズレをニヤリと楽しむコメディタッチな展開へ。最後はしっかりと「面白い映画を見たな~」という感覚に落ち着きました。

全体の空気感はかなり好きですが、個人的な嗜好で言うと、後半の面白い展開のような山が作品全体の中でもう一つ二つあったほうが楽しめたかな、というのが本音。ただ、この淡々とした日常の描き方こそが本作品のウリでもあると思うので、あまり映画的にイベントが続くと映画の色が変わってしまうかもしれませんが・・・

あと、主人公である荒川青くんはどこにでもいそうな普通の好青年で好きなキャラクターなのですが、なんとなく彼を取り巻く女性たちが全体的にちょっと大変そうな人たちが多くて、見ていてやや疲れました。特に青くんの彼女の雪という女性の思考と行動に全然共感できなかったのが、作品に没入するうえでは若干障壁になったかな?

とはいえ、この大衆向けのドラマチックな邦画では得難い、余計な熱量も作られたドラマ性もない独特の浮遊感はなかなか良かったです。繰り返しになりますが、下北が舞台、ということでかなり贔屓目になっている部分もありますが。「映画に大きいも小さいもないから」というこのセリフ。まさに制作陣の思いを代弁しているかのようでした。
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