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オン・ザ・ロックのumisodachiのレビュー・感想・評価

オン・ザ・ロック(2020年製作の映画)
3.8
ソフィア・コッポラ監督作品。

物書きのローラは夫とふたりの娘との4人暮らし。夫は立ち上げた会社が軌道に乗り、飛び回るように忙しく働いている。ほぼワンオペ状態で子育てに奮闘するローラはスランプ気味で仕事もはかどらず、いいようのない焦燥感に駆られていた。そんなある夜、出張から帰ってきた夫の様子に違和感を覚えたローラは、夫が新しく入社した同僚と浮気をしているのでは?と疑い始める。悩んだ末にプレイボーイの父親に相談してみたら……。

スノッブで浮ついたニューヨークの街を舞台にした父と娘の物語、しかもソフィア・コッポラ監督ということでスルーしかけていたのだが、なかなか評判が良いようなので鑑賞。どうもソフィア・コッポラの表層的な「いかにも感」が苦手で、今回も『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』(ウッディ・アレン監督)みたいなことになっていたらイヤだなあと思ったのだが、心配ご無用だった。なによ、良いじゃない!!

大金持ちの父母の元で育ったらしいローラだが、スウェットにネックレスといったスタイリングで都会的子育て女性として日々奮闘している。いきなり疲れた田舎のおばさんにはなっていなくて、都会的なセンスは保持したまま疲れたアラフォー女性に仕立てているところが上手い。ものすごくリアル。

ビル・マーレイ演じる父親はプレイボーイを絵に描いたような恋愛体質の男で、母と姉妹は散々泣かされてきたらしい。しかしローラのことは目に入れても痛くないほどベタ可愛がりしていて、ローラの苦悩に心を痛めていろいろがんばっちゃう。ローラと一緒に過ごせるのも嬉しいみたい。

……と、ここまでくると最終的に「浮気ばっかりしてきたけどパパは娘のことが大好きなんだね!愛してる!」みたいな話に落ち着きそうなものだし、そうなったら最悪だと思っていたのだが杞憂に終わった。

本作はつまり、しっかりと地に足を着けて自分の居場所を見つけた娘が、父親から健全に卒業する話だったのだ。盲目的に父親を肯定するわけでも、全否定して怒りをぶつけるわけでもない。序盤はオロオロしてばかりいたローラだったが、父親に振り回されながらも不安と戦う中で「いまの自分」をしっかりと見つめられるようになる。怒るべきところはしっかり怒り、受け入れるべきところは受け入れ、ちゃんと正面から父の愛を受け止めて、そして自分の足で歩いて行く。

本作は、本当に夫が浮気をしていたかどうかを問題にしていない。ローラが夫を信じられるようになるかが最大の壁であり、そのためにローラは父親への怒りと愛情にケリをつけなければならなかった。ウェディングドレスを脱ぎ捨てて王子様のいるプールに飛び込んだお姫様は、子どもたちが散らかした床を毎日片づけて歩くようになった。それは後退なのか?いや、違う。

日々のルーティンをやりくりし、ママ友の愚痴につきあって、自身のスランプに頭を悩ませ、急に出かけるとなればシッターを手配し、子どもたちの笑顔を毎日守っているローラは、美しく誇り高き大人なのだ。NYのスノッブな世界を平気な顔して歩き回り、どんな贅沢にも顔色ひとつ変えないローラが見つけた地面はバラ色でもフワフワでもない。彼女が立っているのは固くて地味な大地だ。ソフィア・コッポラは故郷NYへの溢れるほどの愛を抱きしめながら、自分自身のいるべき地面を見つけたのだと私は思った。

こうして軽やかに父親やスノッブな浮つきから卒業できるのだから、ドランもあと15年くらいしたら母親の呪いから卒業できるのかな。そうなればいいな。あと、ビル・マーレイは超絶キュートで愛に満ちたダメ親父で最高でした!なにが男の浮気は遺伝子の仕業だ。ばーかばーか!!











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