somaddesign

映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
良くも悪くも原点回帰

:::::::::::

地上の落書きをエネルギーに浮かぶ王国「ラクガキングダム」。時代の流れで地上から落書きがめっきり減ったことで、崩壊の危機に瀕していた。クーデターにより実権を握った防衛大臣は、人間たちに無理やり落書きをさせる「ウキウキカキカキ作戦」を決行。地上への進撃を開始する。一方、ラクガキキングダムのお姫様は、描いたものが動き出すという王国の秘宝「ミラクルクレヨン」を持ち出し、決死の覚悟で地上に託す。

:::::::::::


臼井儀人原作のクレしん外伝「ミラクルマーカー・しんのすけ」を下敷きにしたシナリオで、ここ数年の親狙い路線からググッと原点回帰路線にシフトチェンジ。製作体制も2013年来続いた橋本昌和監督と高橋渉監督の交互監督体制から、「ラブライブ!」で知られる京極尚彦監督にバトンタッチ。劇場版監督のオファーに際しては「アニメの世界観を知らないので、まずはテレビシリーズをやらせて欲しい」と自身の希望で、テレビシリーズの絵コンテ・脚本を数本担当。劇場版の準備と並行して参加してたという。真面目!
テレビシリーズを熱心にみてた人なら、その延長線で劇場版を楽しめるし、普段見てない自分のような観客は新鮮に子供向け「クレしん」を楽しめた!


『ほぼ四人の勇者』と言いつつも、実質しんのすけとユウマくんの物語。生れながらに超然として子供らしからぬ活躍を見せるしんのすけと、そんなしんのすけに羨望の気持ちを持ちながら、自分らしく勇気を奮い立たせて行動していくユウマくんの対比がいい。自分の選択が一見正しいようでも、別の視点では酷く自己中な行動に思えて後悔する自省に長けた少年で、とても6歳には思えない。
一方で、受けた親切を忘れて身勝手な行動をしてしまう大人の卑近さに憤る。大事なときにこそ周りに流されず、自分の行動を省みる大切さを説く本作のメッセンジャー的役割。

臼井儀人の原作からして、本来アダルト向けだったはずだし今読むとアウトな表現が多くて、映画化に際してLGBTの描き方とか配慮が感じられたのは良かった。シングルマザーを一方的に“不幸な家庭環境”として可哀想がったりしないのもいいし、個々人の成長と連帯が世界を救うキモになるクライマックスも泣ける。
ただ、そこまで全方位に気配りしてるにも関わらず、クライマックスのあの解決策はどうかと思う😥 エンドロールでいいから、ちゃんとラクガキをみんなで掃除するようなシークエンスが欲しかった。

そもそもオッサンが「子供向けアニメ」を見に行って「子供向けやんけ!」と文句言うのもどうかと思うけど、劇場版クレしんって子供向けのフリをした大人狙いのシリーズだと思ってた。ひろしやみさえのパパ・ママの役割を必死にこなす自分と、そのことで自分そのものが磨耗してく苦悩がキモっちゅーか。

それに、あの防衛大臣は一体なにがしたかったのだろう? どうみても計画が破綻寸前にも関わらず余裕綽々なのはいいとして、急に弱気になったり弱腰になったり。ラクガキパワーを充足させて、ゆくゆくは自分が王様になるような欲があるわけでもなければ、純粋に国のピンチを救いたいって想いにしては計画が杜撰すぎる。

偽ななこお姉さんが報われないどころか、ちょっと雑に物語から、しのすけの脳裏からも消えてしまって悲しい。結局誰かの代わりにすらなれなかった偽ななこお姉さん可哀想すぎる😢

不満はあるけど、しんのすけのハードボイルドっぷりをキチンと押さえてあって泣けた。始終ふざけてるコなのに、笑ったり泣いたりした顔を直接見せる事がない。笑うときも必ず後ろ向きだし、まして涙を流すことも、本心を見せて弱音を吐くこともない。やせ我慢と意地でふざけ倒すのが『しんのすけ』なので、うっかり本心がポロッと漏れ出る瞬間、見てる方も思わず泣いちゃった。

49本目
somaddesign

somaddesign