まさか

マイルス・デイビス: クールの誕生のまさかのレビュー・感想・評価

4.5
マイルス・デイヴィスは『クールの誕生』(1949〜50)から『カインド・オブ・ブルー』(1959)、『ビッチェズ・ブルー』(1969)に至るまで、20代前半から40代前半にかけて、10年おきにジャズの歴史を塗り替えるほどの革新的かつ金字塔的な作品を発表し続けた。

その後も、彼によってモダンジャズの熱狂的なファンになった人々を置き去りにするかのように、様々な作曲・演奏スタイルを試み、常に変わり続けた。ビバップからハード・バップ、モード・ジャズ、フュージョン、ファンク、ヒップホップに至るまで、その時々の最先端を追求し続けたのは、多くのファンが知るところだ。

生涯手放せなかったドラッグに身体を蝕まれながら、音楽の悪魔に取り憑かれたようにジャズを革新し続けて人生を駆け抜けたマイルス・デイヴィス。本作はその半世紀にわたる活動を、さまざまな記録映像や関係者の証言を織り交ぜて丁寧に掘り起こした音楽ドキュメンタリーである。たとえジャズに詳しくなくても、人物ドキュメンタリーとしても堪能できる傑作と言える。

個人的には『クールの誕生』から『カインド・オブ・ブルー』の頃、つまり60年代前半までの楽曲が好みだ。この時代のマイルスの音楽的な達成は例えようもなく凄まじい。クラシックが現代音楽の構築に失敗した(と僕は思う)のとは裏腹に、マイルス・デイヴィスはモード(旋法)を使うことで、それまでのコード進行を前提としたのとはまったく異なる音楽世界を打ち立てた。

天賦の才能と呼ぶ他ないが、マイルス自身は後ろを振り返ることはなく、過去の演奏スタイルに固執することもなく、モード・ジャズをさらに展開していこうともしなかった。「転がり続ける石に苔は生えない」を体現するような人であり、そこが帝王の帝王たる所以なのかもしれないが、第ニ、第三の『カインド・オブ・ブルー』を聴きたいと思うのは決して僕だけではない気がする。
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