穂苅太郎

i-新聞記者ドキュメント-の穂苅太郎のレビュー・感想・評価

4.2
森達也作品史上最高に笑えて、落差でぞっとする。

今回はエンターテイメント作品として素晴らしいのではないか。
本来デフォルメ、強調できるはずの、先行したフィクション「新聞記者」など、小指の先で吹き飛ばす情感とエンターテイメント性がある。面白いのだ。

いろいろ笑える。特に籠池夫妻の振る舞いや、真偽を問う芯を食った質問をごまかす表情は、文脈とは関係のないはずだが、カットしがたい魅力があったのだろう。声出して笑ってしまった。
主役である望月記者の内面も、子供との電話や旦那が作った弁当や、正直で饒舌な表情に現れていて、この人物だからこその映像化の興味と決意という事が良くわかる。

当初より反政府側に添えられる一方向に向かう魚群のメタファーや、いままでは過剰としてインサートしなかったであろう丸刈りにされた町のフランス娘たちの描写など、リベラル、右派に限らず、あらゆる同調圧力や集団意識の暴力へのカウンターというテーマを珍しく明確にしているところも興味深い。

分かり易い反面、「森達也を劇場に見に来る観客」としては説明過多な部分も各所にある。辺野古、モリカケ、山口敬之レイプ疑惑の論点や報道側のの萎縮忖度はすでに十分にわかっているイシューだったりもするのだ。それこそ個人=iとして唯一不満だった点だ。

ラストに向かっての群集の音声による畳みかけに対して、あれだけ饒舌で攻撃的だった望月記者のなすすべもない表情を追っていく演出は感動的でもある。

おそらくテレビでは放映できないのはもちろん配信でも無理だろうから、この作品こそ劇場で観るべきだ。
穂苅太郎

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