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i-新聞記者ドキュメント-の教授のレビュー・感想・評価

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藤井道人監督の「新聞記者」は個人的に大変な「駄作」であった。それは作品の「質」や「出来」以上に語ろうとする事への志の低さであったり、観客に訴えるべきことを伝える上での「信頼」がつくり手から感じられなかったからこその「駄作」という評価である。 

その「新聞記者」と「親戚関係」のような映画が本作である。

先に述べた点で、本作の方が映像作品として充分に面白い。少なくとも「ドキュメンタリー」としても「映画」としても腰が引けたような描写はないし、タイトルにある「i」という人称が体現するように、東京新聞の記者である望月衣塑子だけでなく、森達也監督自身の思想や、登場人物様々な「個」がない混ぜになっている。

何にせよ。本作はイデオロギーの物語ではない。少なくとも特定の思想のプロパガンダではなく、多様な個が入り混じり、監督や望月記者も含め、個が個でいるために「拗らせて」いたり「面倒くさい」感じと、何か自分の発露に沿って行動をし続ける「業」を浮き彫りにする。

森友問題に関連した「籠池夫妻」の胡散臭さや、伊藤詩織のいち女性としての裁判の臨む際の生身の表情や葛藤などもそうだ。
少なくとも本作の敵は、リベラルにとっての保守政権ではなく、個に対して無表情に制限をかけてくる「権力」の冷淡さの方だ。
孤軍奮闘に対して、さらなる孤立を仕掛けてくるその構図。「天敵」とされる当時の官房長官、菅義偉の態度を改めて見直してみても。現在の総理大臣として君臨しているかと思うと、非常に恐ろしさを感じてしまう。

構成自体が、森監督自身がせり出てくる歪な視点の転換も含め、エモーショナルさを重視し、時には悪ふざけ甚だしいとも思える演出もまた監督が意図する、監督自身の「i」=一人称であることを訴えてくる。

個人的には権力を持った「保守」側は菅義偉や麻生太郎をはじめ、無表情を基本にした冷淡で鈍重な感じ悪さvs対してリベラルな考えの側には「批評というコメディ」を演出するための捻れ、拗らせと表裏一体の強烈な個性みたいなものを感じて、本作自体はとてもエンターテインメントしつつ、頭を抱えてしまった。
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