KnightsofOdessa

WAVES/ウェイブスのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
[我々には"今"があるだけだ] 80点

ある家族の崩壊と再生を鮮やかなネオンで照らし、印象的な音楽が鳴り響く中をぐーるぐると回るカメラで掬い取ったA24の家族ドラマ。崩壊に向けて画面サイズが縮んていき、再生に向けて画面サイズがもとに戻っていくという手法からも、崩壊へ向かう閉塞感と視野の狭さ、逆に再生へ向けて各々の感情を共有して世界を広げていく安堵感と視野の広がりを表していると分かる。それに沿うように置かれる映像は二部を通して対比されており、1が0になり再び1になるという構造は単なる消滅と生成や再生と逆再生としてではなく、反復として語られていることが明らかになる。実に興味深い。例えば、冒頭の360度パンは中盤でも繰り返されるが、どちらもアニマル・コレクティヴの曲を使う細やかさ。同じシーンでも全く違った味わいがあるのだ。

冒頭から猛スピードで加速し始め、タイラーとアレクシスのイケイケカップルが車を飛ばすシーンでは360度パンを二周もするし、そんな動かさなくても…と若干引くくらいカメラが動く。しかし、やたらめったら動かしているわけでも、長回しのための長回しではないことも後々の展開から分かってくるのは、すっかりお抱え監督になったトレイ・エドワード・シュルツの手腕か。視点人物のエモーショナルな場面と静かな場面で緩急を付けるという当たり前のことをしっかりやっただけなのだが、最近の監督はイキりすぎてそれすら出来ていない人も多くいることを考えると、『クリシャ』『イット・カムズ・アット・ナイト』それぞれの要素を吸収したシュルツの成長を見て取れるだろう。

本作品は崩壊と再生の二部構成になっており、それぞれの視点人物が兄タイラーと妹エミリーになっている。興味深いのはそれぞれの物語にそれぞれの存在が欠けていることだろうか。強権的な父親は息子にだけ関心を注ぎ、自身のコンプレックスを裏返しにするようにキツく当たり続けるが、その愛情は娘には全く注がれず、終始空気のように扱われる。本作品はそういった"主人公以外の兄弟の存在感空気問題"に対する一つの答えを提示する。タイラーが思いがけず退場した後、主人公がエミリーになった第二部で、語られることのなかった彼女の視点から"家族"を見つめ直し、つなぎ直す。

初めに書いた通り、本作品は画面サイズが縮んだ後元通りになる。タイラーとアレクシスの二人がドライブ中に歌う360度パンが象徴するように、円環状に構築されている。人生が出会いと別れの物語であるように、0から1を得ては失うことを繰り返し続けるのだろう。寄せては返す波のように。