こうん

WAVES/ウェイブスのこうんのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
この映画が今後、相対的にどのように評価されていくのかはわからないけど、この「WAVES」という映画がとてつもなく革新的な作品だとするなら、おれはその真価を見損なってしまったと言える。

まずおれは映画を観ることの中で、特に映画音楽に対するセンスというものが著しく鈍い。その旋律や音色が映画の中においてどのように影響しているのか、という理解度が低いのだ。
平たく言えば、よほど印象的な劇伴や音響効果以外は大抵スルーしている、というか覚えていない!
そこらへん、音楽的な感度が高い人が羨ましいと常日頃思っております。

とはいえ、音楽と無縁かというとそうではなく、むしろおれのスポティファイ中には開くたびにDaily Mixとしてフランク・オーシャンの顔が出てくるのだ!

この“プレイリスト・ムービー”と称されるセットリストをのぞけば、けっこう知っている曲やアーティストが並んでいる。
なのに!
この映画を観ている最中、それらのプレイリストの曲たちと映像とドラマのマリアージュが全然、ぴーんと来なかった!
寝てませんよ。ちゃんと観てた。観てたのに、その曲たちが。まさに馬耳東風で、ちっとも心にも脳にも引っかからない。
…これはおれの感性の劣化だろうか。
もともと映画は音のない表現媒体なのだから…と原理主義者のふりしても、この「WAVES」を観て露になったこの音楽スルー感性は、ちょっと自分でもショック。

あともうひとつ、これもけっこうショッキングなんだけど、画面サイズが変わっていたことに全然気づかなかった!
鑑賞後、監督インタビューを読んでいてビスタやらシネスコやらスタンダードサイズにアスペクト比が変化していたことを知り、愕然としましたね…!
ちょっと自信を失いました…。

しかしでもまぁ、それらのプレイリストや画面サイズの変化は、あくまで観客を物語やキャラクターのドラマに没入させるための仕掛けであるわけだから、物理的な形として記憶に残っていなくても、この映画で描かれたものがきちんと心に響いていればいいんですよ。

響いていれば…

そこそこ…響いたと思う。
大枠では類型的な物語なんだけど、ちょっとしたキャラクター描写や演技の繊細さでもってディテールが豊かになっていて、前半の痛々しい転落と後半の救いの光明が見える物語は、それぞれに面白かった。

よりよい人生を得るために人以上に努力をした父親が求める完璧を信じ実践してきた息子とその家族なんだけど、完璧ゆえにほんの小さな事故から家族関係や感情の綻びが見る見るうちに修復不能な領域まで転げ落ちてしまう前半と、その破綻してしまった関係や心の傷をじっくりと優しさと希望でもって回復していく道筋を見せる後半と、俳優≒キャラクターのシンクロぶりもあって、魅力ある映画になっていたと思うし、浅い意味でも深い意味でも映像が綺麗でした。

特にふさぎ込んでしまったエミリーとルークの関係性と、ルークの父を看取る旅が良かったし、エミリーのアレクサを救えなかった後悔の吐露にはもらい泣きしちゃったです。
あのパーティーでエミリーが憧れるようにアレクサと接し口紅(だっけ?)をもらうシークエンスが良かっただけに、彼女の気持ちが痛いほどよくわかる…というね。

というわけでそれなりに面白かったんだけど、こだわりのプレイリストと画面サイズ変化を受容できていなかったことで、その手法が映画として自分の中にどのように落とし込まれたのかが検証できない…!という不甲斐なさが悔しい…のであります。

この映画の魅力を捕らえ損なっているかもしれない!…ということでうすぼんやりしている次第です…傑作かもしれないよ!
こうん

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