エソラゴト

WAVES/ウェイブスのエソラゴトのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
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舞台がフロリダ、鮮やかな色彩、A24作品…ポスターヴィジュアルからも『ムーンライト』を匂わせることから淡い青春ラブストーリー物かと思って臨むと火傷をする作品。しかし自分にとってそれは予想を遥かに凌ぐある意味「怪我の功名」ともいえる物でした。

若き主人公のタイラーが身も心も捧げるレスリングという競技。丸い円の中でクルクルと目まぐるしく上に下に体勢を入れ替えながらもがく姿はまるで山あり谷あり、そして高波もあれば漣もある人生そのもの。序盤のキラキラとした360°視点は彼が身を持って経験する決して平坦ではない厳しい現実との対比のように見えました。

『ベイビー・ドライバー』のように音楽が常に鳴り続ける事で音楽がもう一つの主役、そして音楽自体がストーリーを語っていくという演出は"プレイリストムービー"と言われる所以でもあります。ただ個人的に残念だったのは普段自分が聴いているジャンルの音楽ではなかった為、今一つピンとこなかった点。(因みにパンフには監督による楽曲解説が載っており理解の助けになります)

その代わりその曲群のブリッジ的役割を果たしたトレント・レズナー(NIN)& アティカス・ロスが奏でる登場人物達の心情や情景をピアノの美しい旋律で静かにそして繊細に表現したオリジナルスコアの方が耳に残りました。

そんな中物語終盤、寄せては返すまさに波のような感情の高まりの中で聴こえてくるトム・ヨークの優しい歌声は自分の心もスーッと洗われ清らかになる瞬間でした。

兄タイラーと妹エミリー役の主演2人は若さ故の情熱と不安を表情一つで演じこなしていて本当に見事でした。そしてやっぱりルーカス・ヘッジズ!彼が画面に映し出される事での安心感たるや。前半の全体的に重苦しい雰囲気が中盤から彼の登場でガラリと柔和な物に変わっていくのが手に取るように分かりました。

ある恵まれた家族の兄と妹がそれぞれ前後半で主役となる二部構成。彼らのそれぞれのラブストーリーといえばラブストーリーですが、この兄と妹の視点から見た普遍的でもっともっと尊くて大きい"愛"についてのお話でありました。