はる

WAVES/ウェイブスのはるのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
ある程度の前評判は聞いていて、「映像とサウンドにこだわったA24作品」という心構えで鑑賞。
観た上映館は、今作のようにサウンドが重要な作品では安定の爆音気味設定でやってくれるので、冒頭から映像込みでインパクト十分。
そうしてこの作品の見方は伺えたが、そこからもこれまでに観たことのないような体験をしているから受け止め方も迷いながらでいることになる。悪いことではない。
楽曲群の歌詞の世界などは断片ながらも字幕が手伝ってくれるし、それらは詰まるところ彼ら、彼女たちの好きな音楽であるのだと考える(本当は違うが、そう考えることで物語と馴染む)。短いスパンで繰り返される美しい映像などはSNSとの親和性があり、現代の10代の美意識や関心の先にあるものだと受け止めると、今作はそうした若者たちの「今」を見せているのだろうと思えた。

映像表現もリンクして主人公(タイラー、エミリー)の心情や状況を示し続ける。前半のラストにあたる逮捕後のパトカーの中でしばらく明滅する赤と青のライトが過剰なまでに強いのはタイラーのグチャグチャになった内面を示したが、それだけにキツすぎて軽く視線を下に外したほどだ。個人差はあるにせよ、前半の映像の「強さ」はやや過剰に思えた。それはタイラーの変化をある意味「リード」しているようにも見えたので、あの顛末があまりにその通りだったのは微妙。そのショッキングな出来事が埋もれたというか、物語が埋没しかけていたのかもしれない。
とは言え、前半の感動的なシーンである兄妹の抱擁において「影の薄かった(後半で回収される)」妹エミリーを強く印象づけたのは良かったし、上手いなと思う。「あのエミリー」を見たからこそ後半の彼女を理解できる。

後半ではあの強かった映像表現は影を潜めて、孤独なエミリーの心情を反映する。それでもルークとの触れ合いではアイデアに富んだ表現を繰り返す。今作ではドライブ(車内)、水辺、自宅、学校、パーティ、ドラッグ、アルコールが繰り返し描かれ、それは彼らの日常なのだ。それらを捉え続ける今作の姿勢については「ストイック」「野心的」「くどい」の受け止めが混ざり合うのだが。
あの多幸感に満ち溢れた冒頭のドライブシーンと同様の描写がエミリーのパートでも繰り返されたが、その後のタイラーのことを思えば見方は違う。だから見かけの美しさ、楽しげな様子の背後にある現実から目を背けることの危うさ。そのようなものを若者に問うことにもなるだろうし、なにもそれは10代に限ったことではない。
ちなみに「ルークいい奴」だと思いたいが、父親を見舞う道中でハンドルを握っていないのが気になったね‥。

今作を通じて流れる楽曲群と時折それに覆いかぶさるようにノイズが流れる。それはタイトルの"WAVES"で、心の中に繰り返し訪れる不安や悲しみであったりするのだろう。そしてルークの父親が末期にえずく時に出した声がその音に似ているところで「おお」となる。
色んな受け止めがあっていい作品だけど、今作はやはり10代に寄り添おうとしたものだと感じたし、彼らの状況の一部ではあるが「現代」を切り取ったものだと思う。あくまで製作された時点でのことではあれど。

それにしてもケルヴィン・ハリソン・ジュニアの身体性には感心させられたのだが、彼は音楽一家で育ったというから多才なのだろう。またテイラー・ラッセルも今後多くの作品で見られるのではないか。注目したい。
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