このレビューはネタバレを含みます
話題になっていたのは聞いたことがあったが、特に事前知識なしに見始めたけどこれは前情報・ネタバレ無しに見たほうが絶対いいと感じた映画。
(以下めっちゃ長くなっちゃった…)
ドイツの現役弁護士作家フェルディナント・フォン・シーラッハの世界的ベストセラー小説を映画化した社会派法廷サスペンス。原作小説が大ヒットしただけでなく、出版から数ヶ月後にドイツ連邦法務省が省内に調査委員会を設置するほど実社会にインパクトを与えた作品だから驚き。
主人公カスパー・ライネンが新人弁護士ということもあり、観客も主人公目線で事件の真相を追うことができるので重厚なサスペンスで歴史が絡んだ事件ではあるが映画自体はとてもわかりやすかったように思えた。はじめはライネンと被害者ハンス・マイヤーの関係性が描かれており、弁護する容疑者ファブリツィオ・コリーニに対し嫌悪的な感情を抱く。弁護人を引き受けたのはいいが、完全黙秘しており暗中模索で事件の真相を明らかにしていくのだが、それが1944年の出来事へとつながっていく。
歴史的側面を見ると1944年と出てきたときに、ドイツだしナチス時代を描くんだろうなと思ったが、ナチス・ドイツが行った、イタリア人虐殺についてを扱っており、WWⅡにおけるイタリアの歴史って今まであまり深く勉強してこなかったなと実感。
こうやって映画を介して歴史の勉強を再度できるのはすごくいいなと改めて感じる。
WWⅡにおいて、イタリアは、「イタリア王国」と「イタリア社会共和国」という二つの国家が存在し、「イタリア王国」は1943年7月にクーデターが発生しムッソリーニを解任。連合国と休戦協定を結ぶ。その後、10月にはドイツに宣戦布告し、連合国の「共同参戦国」となる。一方、ムッソリーニは、ドイツに逃亡し救出され、北イタリアに「イタリア社会共和国」を樹立。(ドイツの傀儡政権誕生)
要するにイタリア政府とはいえ、全く2つは別物で敵対していた。そのときに1944年3月23日、ローマ市内でパルチザンによるドイツ軍部隊への爆弾攻撃が起こり、33名のドイツ兵が死亡。この報復として、占領軍司令官ケッセリングは「10倍返し」の報復を命じ、イタリア人335人が翌24日に「フォッセ・アルデアティーネの洞窟」で殺害されたという虐殺が起きる。そこからナチス・ドイツによるイタリア人への虐殺行為が繰り返されたというつらい歴史。
本作はフィクションではあるが、この歴史による被害者が秩序違反法施行法に伴う刑法の一部改正によって、ナチスSSを含むナチス犯罪の被疑者が救われた法律(本作で言う「ドレーアー法」)に翻弄された現実を明らかにしていく。
この法改正、当時元ナチスの当事者も関与しており、この人たちが自身の行った戦争犯罪をもみ消しなかったことにすることが目的。この原作小説がきっかけとなり見直されたのは良かったものの、結局関係者が自身の悪事・罪をなかったことにするために法律を操れてしまう現実。『虎に翼』でもあった通り、法とは「船」であり、まさに使い方は乗り手次第。ドイツは自らの法治国家としてのあるべき姿を作品きっかけではあったものの正すことができ良かった。
日本も憲法改正とか法改正とか全く国民のためとは思えない改正案が出されているが、国民自身も不利益を被らないためにもきちんと法治国家としての“国民のための法律”ということを忘れてはいけないと思う。
ピザ屋のバイト店員でライネンのエンストをきっかけに彼の仕事を手伝うニーナ初め、ライネンのチームが大きくなっていくのいいね。