「片思い」をテーマに描かれる群像劇。今泉力哉監督の技量が冴え渡る、しみじみと良い映画だった。
基本的には登場人物たちがただ会話しているだけなのだが、その空気感のリアリティが凄い。演劇的にならないというか、仕草や表情、台詞の言い回しがとても自然。そこまで達者な役者が揃っているわけでもないので、これは完全に監督の功績だと思う。むしろ役者のちょっとしたぎこちなさを上手く活かす演出方法が取られている。また比較的登場人物の多い話ながら話は全くとっちらかっていないし、しっかりと一人一人が丁寧に描かれており、実在感があって感情移入しやすい。映画としてのアクセントを付けるために、ユニークなともさかりえ夫妻を登場させたりするが、バランスが絶妙なので観ていて全く浮いてはいない。むしろこの夫婦と主人公の対面シーンは普通に面白くて思わず笑ってしまった。ラストの終わらせ方もさらっとしていて好きだなぁ。
相手をただひたすらに想うことの美しさ、その想いを相手に伝えることの意義、そういった普遍的なテーマを優しく静かに描いた良作だと思う。とても良かった。
