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mellowの教授のレビュー・感想・評価

mellow(2020年製作の映画)
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映画評論家町山智浩さんが、今泉力哉監督は「好き」という気持ちから始まり、やがてその先の生きるという意味を見つけるというテーマがある、と言っていて、実に鋭いと感じた次第。

本作もズバリそういうテーマ。
基本的には内面を吐露しない田中圭演じる花屋を巡る群像劇という形で、それぞれの「片想い」から派生していく日常をひとつ飛び越えていく物語。

そのためストーリーラインは地味で、何が起こるわけでもない。
しかし、田中圭の「空っぽイケメン」ぶりが機能して素晴らしい。本作の個人的興味は、これまであまり魅力が感じられなかったチ田中圭を今泉力哉監督がどれだけ「映画」に引き寄せ、引き上げられるかだった。
時折、特に序盤は心配だった点も、とにかく動かない、動かさないに徹底した脚本と演出によりまずまずな上に。
車内で煙草を吸うさりげない横顔のショットの味わい深さで満足できた。

また、恋愛を主軸に展開していきながらも、やはり恋愛という着地はせずに、さりげなく会話から生まれる個々の価値観の差異が生む関係性を美しく描いてみせる。
特に、ダイレクトなコミュニケーションが不得手な「日本人」にとっての関係性を見つめた描写の冴えが、本作を「優しい映画」として受け入れられている由縁だと思う。

そして「恋愛」が動機であって、生まれた別の可能性にこそ価値がある、という視点は「人生はうまくいかない」という現実に対してより現実的なカウンターとしての物語の役割を担っていて、素晴らしい。

個人的には、ともさかりえの怪演は面白くはあったが、物語のトーンと少し別のベクトルに働いていた感もあって気にはなったが、思わず笑ってしまったし、観客も爆笑していたので良かったのだとも思う。

ひとつを気になる点としては、所謂「商業映画」の匂いが強く、描写が軽めになった分、個性が埋もれてしまったようにも感じた。
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