晴れない空の降らない雨

失くした体の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

失くした体(2019年製作の映画)
3.8
 アニメーションが動物や昆虫、あるいはオモチャを主人公にすると、空間はとたんにアスレチックになる。そうして優れた作品は、狭いスペースを手に汗握るアクションの現場にし、人間の日常的動作に主人公の生死を左右させ、取るに足らない物を重要アイテムに変貌させる。しかし、まさか「手」とは! 序盤はとくにグロテスクなイメージとともに、旅する「手」の受難劇がつづく。誰かの腕から切り落とされた可愛くない物体が、人間に見つかりそうになったり、小動物に食われそうになるのをハラハラしながら見守ることになる。いや、途中のヤドカリ姿は可愛いつもりなのかもしれない。
 
 手の冒険とともに、持ち主の幼少から直近までのエピソードが差し挟まれる。こうして本作もまた、独特の仕方で記憶を扱うアニメーション作品である。手の現在と男の過去とを往還し、運動や事物の見かけの反復をつうじて宿命論を示唆する。カセットレコーダーによって凝固した過去。また、中割を抜いた連続写真のような動きは時間を対象化する(それとも拙いだけかぁ?)。そして手は過ぎ去った瞬間を取り戻そうとするが、それはいつも砂のようにこぼれ落ちるし、蠅のように逃げていく。しかし運命を変えるとは、過去からの連続性を断ち切ることでもあり、そのために明後日の方角へ命がけの跳躍を行うことだ。手は、今や自分が過去なのだと悟り、後ずさる。