ヨーク

デンジャー・クロース 極限着弾のヨークのレビュー・感想・評価

4.0
本作は『ランボー ラスト・ブラッド』と同じ日に観たんですが、本来は観る予定ではなかったけどランボーに当てられてテンション上がりまくったのでベトナムものであるという『デンジャー・クロース』も観てみようかとなったわけですよ。結果は観て大正解。とても面白い戦争映画でした。
舞台は1966年のベトナム戦争真っただ中。ベトナムものにしては珍しく主役となるD中隊は米軍ではなくオーストラリア軍で部隊の主な隊員も20代前後とかなり若い新兵の部隊だそう。しかもD中隊100数人くらいの兵力に対して北ベトナム軍とベトコンの混成軍は2000人以上と多勢に無勢。そんな新兵たちがベトナム戦の中でもとっておきの死地である「ロング・タンの戦い」で繰り広げる死闘を描いたのが本作『デンジャー・クロース 極限着弾』である。多分極限着弾というのは日本用のサブタイトルだと思うが観劇後だと実にいい味のサブタイトルだと思う。
まぁ「ロング・タンの戦い」で繰り広げる死闘、とかすぐ上で知った風な感じで書いたが俺はそんな戦闘のことは全く知らなかった。いやどっかで文字列だけ見たり他のベトナムものの映画のセリフとかで聞いたことはあるかもしれないが詳細は全然知らなかったですね。ベトナム戦争、もとい第二次インドシナ戦争に関しては結構昔に興味を持って本を読んだりドキュメンタリーを漁ったりで素人なりに勉強してたことがあったんだけど本作で描かれた戦いは知らなかったですね。
1966年だとサーチアンド・デストロイ以降の泥沼にハマっていった頃だと思うけど作中で描かれた「ロング・タンの戦い」も酸鼻を極めるような戦いだった。まず先に書いたように彼我兵力差が圧倒的。そしてD中隊には物資も不足している。そういう主人公側が圧倒的に不利で、尚且つ実話をもとにした映画というと『ブラックホーク・ダウン』や『ローン・サバイバー』もしくは『硫黄島からの手紙』なんかが思い浮かぶが本作もそれらに引けを取らない力作だったと思う。
冒頭はなんかいかにもB級戦争映画みたいなノリで始まるんだけどいざ戦闘が始まってからは凄いんですよ。途中に箸休め的なシーンはあるもののずっとカメラは戦場を映し続けて緊張感がほぼ途絶えない。一時的に戦闘が終了した場面でも基本的にD中隊は北ベトナム軍に包囲されているのでいつ彼らと会敵するか分からない怖さがある。その戦場の緊張感というかライブ感は凄かったですね。で、そのライブ感というと本作で面白かったのはD中隊を軍隊という組織のいくつかのフェイズに分けて表現されていたことで、主にカメラに映るのは主役たちがいる最前線なんだけどそこから常に無線を通じて本部と連絡を取り、必要とあれば様々な支援を受けるという軍隊の運用のプロセスのようなものが描かれていたことですね。戦争映画は数あれど、正直本作ほどに敵味方がお互いに表情を見て取れるほどの超近接戦とその支援砲撃にだけ特化したような戦争映画はそうそうないだろうと思う。泥まみれで地面に這いつくばって銃弾が頭上を通過しながら今自分がいるポイントの座標を無線で伝えてそこに着弾するように砲撃を頼むわけですよ。もちろんそれは半世紀前の戦争で、現在のリアルな戦場とはまた違うのだろうけどとてつもない臨場感はありましたよ。その辺は本作でマジですごかったポイントだと思う。実際に支援の空爆とかがきたときにガッツポーズ取ってしまうくらい感情移入したよ。
そして最初に、主役となるD中隊、と書いたように本作の主人公は個人ではなく部隊そのものだと思う。もちろん個々人のドラマもそれなりにはあるし魅力的なキャラクターもいいるのだが、やはりこの部隊で生きた若者たちを描いた映画なのだろう。単に俺が泥だらけになった役者たちを見分けられなかっただけという理由もあるが、まぁ本作の制作意図自体がエンディングを見るまでもなくD中隊への敬意と慰霊によるものだとは思うので個を描いた映画というよりも彼らを描いた映画なのだと思う。
ぶっちゃけランボーに興奮してついでに観るかってノリだったのだが思わぬ良作に当たってしまったという感じで嬉しい誤算だった。戦争という国家間の巨大な構造の中での一単位としてのD中隊が描かれていて、さらにその中で何の意味もなく消えていく個の命が身も蓋もないくらいドライに扱われていて非常に良かったですよ。
めっちゃ面白かった。いい戦争映画です。
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