Mikiyoshi1986

情事のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

情事(1960年製作の映画)
4.6
本日9月29日はイタリア映画界の巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督の生誕105周年!

彼が48歳の時、後のパートナーとなる当時29歳のモニカ・ヴィッティを主演に迎え監督した大出世作「L'AVVENTURA(冒険)」

外交官の典型的な奔放令嬢アンナが婚約者含む仲間たちとシチリア沖をクルージング中、
立ち寄った岩壁の孤島で忽然と姿を消すミステリーからテーマは刻々と姿形を変えていきます。

この"不在ないしは実在"のドラマはヒッチコック監督の「レベッカ」や「めまい」とも類似するモチーフが用いられているわけですが、
後半からはアンナを捜索する道中に婚約者サンドロとアンナの親友クラウディアとの背徳的な情事が展開。

アントニオーニ「愛の不毛シリーズ」の第一作目と称される本作は、
不可解かつ不明瞭な男女間の"愛"を主軸に、現代社会のモラルの崩壊、醜悪と痴情にまみれたブルジョワ階級への揶揄、更には北イタリアの気質を色濃く反映させた革新的な重要作に値するのです。

そこに映し出されるのは、倦怠と不安の中で"愛"なるものを貪る人々の姿。
圧倒的な美貌を有するモニカ・ヴィッティことクラウディアには男たちの熱い視線が注がれ、その秋波の送り方が北イタリアと南イタリアで全く違うのも見所のひとつかと。

常にどこか寂寥感が漂うシーンは二人の機敏を巧みに表現し、クラウディアのか弱い健気さが一層サンドロのすけこまし具合を助長させてくれます。

また唯一クラウディアが明るく浮かれるシーンは「赤い砂漠」でも再現され、一層の虚無感を演出する効果となっています。
愛を通してアンナの存在がクラウディアへと成り代わっていくことは謂わば"ペルソナ"的とも取れ、
あらゆる解釈の余地が残される数々の仕掛けはアントニオーニの偉大なる功罪と云えるでしょう。

そして一部の隙もない演出とどこまでも完璧な構図は、今もなお我々を魅了して止まぬ名画の貫禄を漂わせるのです。
Mikiyoshi1986

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