優しいアロエ

情事の優しいアロエのレビュー・感想・評価

情事(1960年製作の映画)
4.6
〈終幕の恐怖が付き纏う、危うくも魅力的な関係〉

 失踪した妻を追い、男と女が情事へと堕ちていくミケランジェロ・アントニオーニの代表作。

 同年公開の『甘い生活』さながら、本作もまた、イタリアン・ブルジョワジーの退廃的な生活と虚無的なアヴァンチュールを切り出している。2作品の共通項は多く、悠然としたパーティーとその残骸をはじめ、スター女優に人々が群がったり、主人公が商業主義に屈しかけていたりと奇妙な符合を見せる。ちなみにその年のカンヌは『甘い生活』が最高賞、『情事』が審査員賞という形に終わっている。

 ただし、叙事詩的な『甘い生活』と異なるのは、あくまで男女のロマンスが物語の主軸を成すところだろう。物語を早々に退出し、最終的に行先どころか生死すら明かされないアンナの存在が、情事に溺れる男女ふたりに甘い関係が終わってしまう恐怖を与えつづける。その恐怖は、いつ解けるかもわからない魅惑的なひとときに滞留し、現実に引き戻されることに内心怯える現代人の憂懼そのものとも云える。だが、逆に云えば、アンナは永遠に現れないかもしれない。「失踪」という絶妙な設定がふたりに一抹の希望を抱かせる。

 勿体ぶったような時間の使い方にしばしば苦痛を感じるかもしれないが、モニカ・ヴィッティに身惚れていればすぐに終わる仕組みとなっているから安心してほしい。撮影美も筆舌に尽くしがたく、特に孤島におけるそれは見事だった。茫漠とした海と空をバックに、人物をカメラ手前に配置。奥行きの美学を楽しませてくれる。孤島を息苦しく閉鎖的に映したベルイマンとは対照的だろう。

 それでも本作より『甘い生活』のほうが好みだったのは、単に俳優の好みの問題かもしれない。ヒッチコック映画出身のようなガブリエル・フェルゼッティよりもマルチェロ・マストロヤンニのほうが俄然好みだった。次は『夜』を観て対象実験に移りたいと思う。
優しいアロエ

優しいアロエ