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サクリファイスのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

サクリファイス(2019年製作の映画)
3.4
子供の頃、東日本大震災を夢で予知した少女・翆。母と共に新興宗教団体に身を寄せていたがある事を切欠に団体から脱出、現在は大学で学生生活を送っていたが、彼女の身辺で謎の連続猫殺し、女子学生殺害事件、そして若者を戦地へ駆り立てる謎の団体が学内で暗躍していた……という青春ミステリー+群像劇。

『東日本大震災をテーマにした脚本を書く』という大学の課題が切欠で制作に至った作品。

震災当時から現在も、ここに住む自分にとってあの震災は10年を経ても記憶は地続き。
でも被災地から離れた地に住まう方々とっては国内とはいえ最初のショックが薄れれば何処か遠くの出来事になり、実体験の伴わない分、時間が経つに比例して沢山の人達が亡くなった震災という骨子だけが残るんだろうなあ……と、ネガティブな意味ではなく、この作品を観ながら考えていました。
また、震災がリアル体験でなかった世代?層?が、こういう形で震災を取り上げることが、当時を思い出すトリガーにもなるんだなあ……と思ったり。

作品に登場するのは震災当時は子供で、現在は大学生になり社会人への過渡期にいる若者。
それぞれ生きにくさや葛藤、焦燥感、鬱屈を抱えていつつ、ある者は復讐を、ある者は他者の導きで普通の枠から飛び越えることを、ある者は崇拝から、それぞれ行動を起こします。

タイトルですが、作中でそれに象徴されるのは多分『ソラ』と『全』なのかな……と個人的に思ったり。

そして翆は全から「走れ」と、沖田はソラから「生きて」とメッセージを受け、それぞれ自分の目的を見つける……という結末のような気がするのですが、沖田君だけはエピローグで姿を現さず、不穏な目撃情報だけ残される。
冒頭の空撮シーンから沖田君の存在感に比重が結構あったのに、すうーっとフェイドアウトしている意味は、何か『お前らと俺は違う』という拒絶と分断を感じたり。

作中で自分勝手で人を振り回す塔子は、沖田君にシンパシーを感じ一方的に付き纏いますが徹底的に拒絶される。
あの終盤の『甘えんな』という沖田君の吐き捨てる言葉に、沖田君!!よっしゃーーーー!と思ったのは自分だけではないハズ……笑

で、後々、彼女も同じことをなぞっているんですよね、かつての正哉と同じく。
(就活にマインドマップ的な自己分析が必須なだけかも知れないけれど)
そして沖田君の目撃情報と頻発する地震に薄っすら嗤う。
なんとなく日本がどうにかなってしまえば良いのにという願望が心の底にあるのかな……でもその気持ちわからなくもない。
全編通して腹立つ存在の塔子ですが、その行動は分からなくもないんですね……一部は。
(大分拗らせている気もするけれど……笑)

うまく言えませんが、こういった、映画の中のミステリーを動かすひとつの装置という形で、震災を物語ることも、震災ナラティブの修復・再認という形になるのかも。
と、ぼんやり考えつつ、観て良かったと思った作品でした。