Lovina

シネマ歌舞伎 女殺油地獄のLovinaのレビュー・感想・評価

シネマ歌舞伎 女殺油地獄(2018年製作の映画)
4.7
松本幸四郎✖️市川猿之助と言うこれ以上無い程豪華なタッグは、歌舞伎入門にも良かろう、と鑑賞。
想像を超える狂気に満ち満ち、凄まじい映像が畳み掛ける様に続く。

上映終了後は、狂気と言う点に於いて最も記憶に新しい『JOKER』と比較する自分が居た。
しかし息を呑むと言う点に於いて、本作はアカデミー賞最有力候補と呼び声の高いそれをいとも容易く超えてしまう。
特に幸四郎さんの「眼の色が変わる」シーンは呼吸すら忘れ、吸い込まれてしまう様な感覚を覚えた。

『JOKER』の狂気を、暴発する銃に例えるとする。
すると反して『女殺油地獄』は、我が国が誇る怪談と同様、骨の髄から迫り上がる様な恐ろしさを孕んでいるのだ。

油がどくどくと流れ出し桶がひっくり返される中で、滑り、転びながら刀を振り回すシーンの格好良さは圧巻であった。
欲を言えば、与兵衛がお吉の腰を抱く(お吉が海老反りになる)シーンは、もう少し引きで拝見したかったが…。
そして、筋に於ける三味線・鳴り物の貢献も強く実感。
特にお吉を殺めた直後、与兵衛の気が動転する余り刀を鞘に収める事が出来ないシーンは
手の震えに合わせて甲高く鳴る三味線、
鞘に嵌った瞬間、効果音の役割すら担う三味線が
鑑賞者の鼓動を早め手に汗を握らせる。
幸四郎さんのお芝居は古典と現代の均衡が素晴らしく、解説が無くとも心境が非常に汲み取り易い。
お顔立ちを一見すると女形は彼の様にも見受けられるが、着物を艶っぽく着付けられた猿之助さんの立ち働きも、実に楚々としていた。
正しく頭の天辺から指の先まで、女より女なのだった。
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