にくそん

テイクオーバーゾーンのにくそんのレビュー・感想・評価

テイクオーバーゾーン(2019年製作の映画)
3.2
ジュブナイル映画の主人公が、人にキツく当たるスクールカースト高め女子って、なかなか新鮮だった。運動神経がやたらよくて、彼氏が当たり前にいて、父親に悪態はつくけど料理はちゃんと作ってあげる中学生の沙里が魅力的。弟くんのこと大好きなのもかわいい。主演の吉名莉瑠さん、本気でイラついたようにセリフがしゃべれるのすごいな。

ただ、走るシーンの見せ方がいまいち好みに合わず残念。スローモーションとか呼吸音とかは、ここぞで使ってほしい。映画始まってすぐは淡々と描写したほうが逆に引き込まれたと思う。こっちの熱が上がってないうちに、ドヤってやられると気持ちが引いてしまう。

あと、クラスや陸上部の女子たちに、もうちょっと演技をつけてあげてほしかった。沙里を口々に非難するシーンなんかで、みんな不自然なぐらい同じことしか言わない。たぶん台本に「『ありえないんだけど』などと悪口」みたいにセリフの例が一つしか書かれてないんじゃないのかな。台本はそれでもいいけど、だったら現場でもうちょっとフォローがあってもよかった。奇妙な輪唱のせいで、こんな感じにムダに撮影風景を妄想してしまって気が散る。

内田慈さんは今回もよかった。沙里の父親と離婚した後で金持ち男性と再婚し、夫や夫の連れ子に媚びを売るっていう役で、顔に貼り付けたような笑みがいい感じに不気味。でも、てっきり金だけが目当てかと思いきや、ちゃんと連れ子の母親になりたい(=夫を愛している)んだなってわかるシーンがあって、そこはジーンとした。最後のスタジアムのシーンも、ちょっと唐突には感じたけど、聞きたいセリフ、見たい画だったので、カタルシスっていうやつを堪能させてもらった。

タイトルも好き。テイクオーバーゾーン。リレーのバトンの受け渡しをするゾーンのことで、劇中でもちゃんと説明してくれる。まさにリレー競技に打ち込んでいく少女たちの話でもあるし、誰かの母(父、姉、娘)という役割を誰かから引き継ぐ人たちがいて、そこにもかかっているのかなと思った。言葉がうまくなくてこじれる人たちの話でもあったので、ちゃんと手渡して届けるっていうところに注目させる意図もあったのかもしれない。なかったかもしれない。
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