エミさん

テイクオーバーゾーンのエミさんのレビュー・感想・評価

テイクオーバーゾーン(2019年製作の映画)
4.0
TIFF2019にて。陸上をする中学生少女を中心に描かれたジュブナイルストーリー。

物語の始まりは両親の離婚シーンから。それから2年後。うだつの上がらない父と暮らすサリは、すっかりスレてしまっていた。自暴自棄になり、家でも学校でも悪態をついて周囲に迷惑をかけている。足が校内の女子では1番速いことを笠に、所属する陸上部の練習も横目で見てサボっている。自分がこじらせていることもあるし、他人のせいでこじらせていることもある。哀しい境遇であることは間違いなく、そんな心境を写すかのように彼女は誰にも頼らずに1人で走り続けている。

ヒロイン、サリ役の吉名莉瑠さんの表情がすごく良かった。強い目ぢからがあって人を惹きつける素敵な魅力を持っていました。まだ浅いキャリアですが、今後の活躍に期待大です。

同級生のユキナと大会で走るシーン。
母親に「頑張ったね」と抱きしめられるシーン。
母親の新しい家族と別れ、父親の待つ駐車場へ行くシーン。

反発していた時期を超え、サリの成長が感じられる瞬間が切り取られていて、じわじわと同情をあおられました。
子供の時代は、自分の意思に関係なく、周囲が変化していくことが許せないと思ったりする。それに反発したくなったり、でも、じゃあ何がしたいのかが判らなくてイライラしたり悲しくなったりする。そういう姿が今はとても、みずみずしくてキラキラして見える。

目の前のことを受け止めることが現実。辛いことは誰にでも起こる。何を辛いと感じるかには個人差があるが、それを受け止めて、さらに越えて生き続けていくのには勇気やエネルギーが必要だ。
若いうちは、ひとりで頑張りたい、ひとりで生きていると思ったりするが、人間は弱い。1人じゃ生きていけない。最後のシーンはそういった、家族や仲間との絆を感じられるシーンで、ジーンとしました。起承転結がしっかりした脚本の良さはもちろんですが、出演者も演出も新鮮で良かったです。

青春映画が好みなシネフィルさんや、良質作品を発見するのが得意なシネフィルさんにオススメの作品です。