IMDBでリリースの年月日を確認すれば1962年2月16日とある。
同じ年の10月16日〜28日、世界は核兵器による最終戦争の危機に直面している。キューバ危機だ。
戦争の傷がまだ癒えない時代、未来への希望を持ちながら、人々がうっすらと感じていた万が一の最終戦争の恐怖が、まさに現実のものになりかかっていた、その直前の空気を『ラ・ジュテ』は今に伝えてくれている。
それは『甘い生活』でシュタイナーが我が子らを道連れにして旅だったときの空気と同じであり、マルチェッロが背を向けた死んだ怪魚の眼のように、ぼくらを背後から追いかけてくる。
しかし、今のぼくらに決定的に欠けているのは、そんな空気にゾッとする感覚であり、死者たちが過去から送ってよこす眼差しに痛みを感じる感受性なのだ。だからこそ、この映像を前に際立つのは、あまりにも愚鈍に堕したぼくらの蒙昧ということなのではないのだろうか?