ハル奮闘篇

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

4.3
【 集大成だというこの映画は、愛のカタマリなのか 】

 予習のためと思われる旧作のレビューや、早々に観た新作のレビューが僕のTLに流れ始めた頃。
 僕はサムライミ監督3部作だけ観ている。さすが名匠、ドラマを物語る力が高くて好きだった。
 それだけに、次々に流れて来る未見の映画のレビューに「ちぇっ。サムライミが一番面白いに決まってるよ」と石ころを蹴飛ばしてみた。

 だが待てよ。
 老いては子に従え。袖すりあうも他生の縁。
 フィルマの若い人たちに大評判の「集大成」というこの映画を観ておくという姿勢は、僕の老後を豊かにするのではないか。(しないか。)

 ともかく、指南を求めて、同年輩だけど熱心なファンである黄色い方のところを訪ねた。
 「サムライミしか知らないんですが、新作を楽しむためには、どうしたらいいですか?」
 「では、まずアンドリュー・ガーフィールド主演2部作を観てみなさい」。
 これは大人の恋愛映画だった。精神的に自立したヒーローとヒロインの恋愛模様、その葛藤と選択。さすがは「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ監督。期待以上の出来だった。

 観終えて、また彼に会いに行った。
 「次は、トム・ホランド主演2部作を観てみなさい」。
 この主人公はグッと精神年齢が幼かった。そのぶん、ポップでいい意味の軽みがあり、オタク系の相棒との掛け合いも楽しい。前2シリーズとは全く違う魅力。これも悪くない。


 そして満を持して観てきたぞ!新作「ノー・ウェイ・ホーム」。
 いやぁ観てよかった。過去作を予習してよかった。

 おおっ!歴代ヴィランの再登場!シリーズの垣根を越えてきたか!
 「デフォォォォーーーッ」と、どこからか少女たちの叫ぶ声が聞こえた。

 そしてなんと、第1シリーズ、第2シリーズのピーター・パーカー、まさかの登場! リベンジしようと向かって来る「シリーズ違いの敵」に「僕はあなたのピーターじゃありません!」という台詞には爆笑。
 そうして、フィルマで、トビーマグワイアが一番好きだ、と言った方を思い出した。
 アメイジングの恋人たちの落ち着いた雰囲気が好きだ、と言った方を思い出した。

 ここまで来たら、なんとかエマ・ストーンを…。その願いこそ叶わなかったが、ちゃんとアンドリュー君の心の傷を癒してくれるシーンが用意されていた。グッときた。

 仮面ライダー、ウルトラマン。ヒーロー大集合映画は数あれど、たいていは一緒に戦うだけ。しかし本作には3人のピーターの絆、交流がしっかり描かれていた。「腰が痛むんだ」「糸でスィングしてると腰にくるよね、わかるよ」と3号が2号の腰骨を矯正してあげるシーン。1号が二人に「君たち、大好き」と抱きつくシーン。彼らが愛おしくなる。


 そして、このあたりから僕は「この自分の高揚感の正体」がなんなのか気づきはじめた。

 ひとつは映画の作り手たちの、ファンに対する愛と感謝が映画から溢れ出していること。僕が理解できたネタは7割、もっと少ないのかもしれない。でも、残り3割のシーンのひとつひとつが、コアなファンたちを喜ばせたくて作り手が練りに練ったものだろうことは想像がついた。

 もうひとつは、映画と同時進行で頭に浮かんでくる、フィルマで交流させてもらっている人たちのこと。アベンジャーズでの活躍まで熱心に見ているあの人は今のシーンで胸を熱くしたんだろうな、などと無意識のうちに思えてくる。まるで隣のシートで観ているみたいに。

 そう思うと、なんだかこの映画が、愛のカタマリのようにも思えてきた。

 上映中、2つ右隣の男性客が、声を出してゲラゲラ笑っていたかと思うと、ぐずっぐずっと鼻をかんでいるのがわかった。終映して客電がつくと、僕よりかなり年輩のおっちゃんが幸せそうな表情で余韻に浸っていた。
 「お好きなんですね」と声をかけたい気持ちを抑えて、なんだかお裾分けをもらったような気分で階段を降りた。

 皆さん、いつもありがとうございます。