樽の中のディオゲネス

ジャンゴ 繋がれざる者の樽の中のディオゲネスのレビュー・感想・評価

ジャンゴ 繋がれざる者(2012年製作の映画)
4.5
 町山智浩によると、アメリカではこれまで、ほとんど黒人奴隷を扱った映画が製作されず、だからこそタランティーノは本作を制作したのだそうです。つまり、タランティーノは、黒人奴隷を扱った映画を、まじめに作ったということです。
 まじめに作られた、歴史的事実を扱った作品は、特徴的な面白さがなければ退屈なものです。一方、そもそも面白さなどない歴史的事実に、面白さが意図的に加えられた作品もまた、退屈なものです。故に、いわゆる社会派の映画をつくることには、多大な困難が伴うのだと想像しますが、本作は面白いし、退屈させられない作品です。
 本作が面白い理由の一つは、本作がフィクションである、ということにあるのだと思います。社会派の映画にはよく「ノンフィクション」と銘打たれたものがありますが、過去に起きた事実を現代に再現しようとしたとき、少なからず、想像で映画をつくらなくてはいけないことは明白でしょう。だから「ノンフィクション」などありえないのだ、と屁理屈を言うつもりはありませんが、タランティーノのその想像力が、観客にとっては面白いのでしょう(『イングロリアス・バスターズ』はその最たるもの、というよりはそれを超越した結果なのだと思います)。
 さらに言えば、タランティーノ作品には、様々な作品へのオマージュがちりばめられていると言われますが、当然のことでしょう。何からも影響を受けずに作品を作ることなど、不可能なのですから。他の作品の影響、舞台設定としての歴史的事実の援用、様々な経験による豊富な創造力、これらが映画を魅力的にするのであり、タランティーノはこれらを大いに利用しているからこそ、彼の作品は面白いのだと思います。