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ジャンゴ 繋がれざる者のYYamadaのレビュー・感想・評価

ジャンゴ 繋がれざる者(2012年製作の映画)
3.8
【監督クエンティン・タランティーノ】
第7回監督作品
◆ジャンル:  
 ウェスタン
◆タランティーノ肩書:
 監督、脚本、出演

①今度は「マカロニ・ウェスタン」
・『ジャンゴ 繋がれざる者』は、2012年公開のタランティーノ第七回監督作品。
・原題『Django Unchained』は「自由な身のジャンゴ」の意味。1966年の『Django』(邦題『続 荒野の用心棒』)と1959年のイタリア映画『Hercules Unchained』をモチーフにしたタイトル。
・本作の作調「マカロニ・ウェスタン」は
、制作コスト削減のため、60~70年代前半にイタリア・スペインを中心としたヨーロッパ各地の荒野にて制作された西部劇。タランティーノ第8作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』終盤では当時の時代背景が描かれている。
・これらの「B級・ニセモノ西部劇」の特徴は「アウトローな主人公による過激なアクション」、悪人しか住まない街における「勧悪懲悪の薄いストーリー」、口笛によるエンニオ・モルコーヌの楽曲など「クールで大衆性のあるテーマ曲」が挙げられる。
・なお、これらの作品群のことをイギリスやアメリカでは「スパゲッティ・ウエスタン」と呼称されているが、それでは弱々しいイメージがあるため、映画評論家の淀川長治さんにより「マカロニ・ウエスタン」と命名された和製英語である説が有力のようだ。
・日本では、これらのB級西部劇は「日曜洋画劇場」で放映されたクリント・イーストウッド主演作(山田康雄が吹き替え)で人気を博し「必殺仕事人」や「太陽にほえろ」、黒澤作品の「用心棒」にも影響を与えている。
・わずか10年ほどで500本以上、「ジャンゴ」がタイトルにつく作品だけでも50本以上が乱発制作されているらしいマカロニ・ウェスタンは、アカデミー賞など賞レースの表舞台にでることはなかったが、「B級作品」を愛する映画オタク=タランティーノによって、現代風にアレンジされたのが本作である。
・本作はタランティーノ初のウェスタンにして、前作『イングロリアス・バスターズ』を超え、タラ最大のヒット作に。また『パルプ・フィクション』以来、2度目のアカデミー脚本賞に輝くなど、彼の代表作のひとつとなる。

②史実との対比
・本作の舞台は南北戦争直前、1859年のアメリカ南部。黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、ドイツ人の賞金稼ぎキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)に奴隷解放され、人種差別なく対等に接してくれる彼により、賞金稼ぎの仕事を教え込まれる。賞金稼ぎとして経験を増すジャンゴのもとに、悪辣な白人農園主カルビン(レオナルド・ディカプリオ)のプランテーションに生き別れたジャンゴの妻がいることを知った2人。彼女を救う為にキャンディのプランテーションに向かうが…
・前作『イングロリアス・バスターズ』に続き、タブー史に斬り込み、歴史歪曲を諸ともせず、映画娯楽性を高めた演出は本作でも見られる。

・奴隷解放された黒人が賞金稼ぎとなり、白人を征伐していた史実はないようだ。南北戦争終結(1865年)に奴隷開放後も、アメリカでは、白人と有色人種との社会環境を分別させる、悪名高い「ジム・クロウ法」は1964年まで存在していた。
・奴隷主が黒人達を闘士「マンディンゴ」として、殺し合いを見世物とした歴史的証拠もない。
・作中に登場する、ジョナ・ヒルが演じる
覆面ならず者集団「レギュレーターズ」は、白人至上主義の秘密結社KKK(クー・クラックス・クラン)の前身のように描かれている。
・また、本作では「ニガー」が乱用され、黒人売買に対する描写が多い。演じるディカプリオが相当ナーバスとなる場面もあったそうだ。
・アンチ・タランティーノの代表格である映画監督のスパイク・リーは「奴隷制はマカロニ・ウエスタンではなくホロコーストである」と、今回も激しく非難したそうだ。

③娯楽作品の演技と連続アカデミー
・B級娯楽「マカロニ・ウェスタン」作調の本作であるが、オーストリア人俳優、クリストフ・ヴァルツは、2009年の『イングロリアス・バスターズ』に続き、アカデミー賞助演男優賞を受賞。タランティーノはヴァルツに対して「ミューズ」と言わしめた。
・悪辣な白人農場主という難しい役どころをを演じたレオナルド・ディカプリオも、本作にて性格俳優としての実力を開花させているような気がする。もともと演技派のディカプリオの演技幅の広がりは、彼の次作品『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』に繋がっている。
・また、どの作品でも「サミュエル・L・ジャクソン」を演じている、サミュエル・L・ジャクソンも、本作では黒人執事役をヒールに演じており、いつもと異なる演技を見ることが出来る。

④結び…本作の見処は?
○:社会風刺を含む現代風「マカロニ・ウェスタン」の心地好さ
○:アメリカ荒野の美しい風景
○:ジャンゴによるハードアクション、プランテーション大爆破
○:性格俳優陣のクセあり演技
×:黒人奴隷に対する処罰シーンやマンディンゴの闘いのシーンは見ていられない。
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