柏エシディシ

SKIN/スキンの柏エシディシのレビュー・感想・評価

SKIN/スキン(2019年製作の映画)
2.0
同名短編でも魅せてくれた安定した演出力とbased on true events の面白さは確かに在る。
しかし、それでも鑑賞から時間が経ち反芻してみると物足りない印象を感じてしまっている自分がいる。

どんなに極悪メイクを施されていてもジェイミー・ベルが、顛末を了解して観ているから尚更、はじめから良心のある「人間」にしか見えず、極右のネオナチから転心していく説得力と(誤解を恐れずに言えば)物語のカタルシスを感じられなかった。
観ているだけでこちらの痛覚を刺激してくる様な「変身」の挿入カットは挟み込まれるものの、本作のテーマと思われる「人間は変われるのか」という「変化」の深淵と困難には迫り切れていない様に自分は感じてしまった。

また、極右側の描写の厚みに対して、反対側のダリル・ジェンキンスや被差別側の描き方が額面通りで掘り下げが弱い点も気になってしまった。
そこまでして転向を促すダリルの人物像と決意の輪郭は十分に語られているとは思えなかったし、ブライオンを受け入れる側の「社会」の存在も、あくまでブライオン側の視点や葛藤でしかこの映画の中では描かれていない。
パンフレットによると、製作者側は次はそちら側に寄った作品を手掛けるとの事だから、本作の意図したアプローチではあるのだろうけれど。

また、本作におけるもう一つのテーマでもある"SKIN"に関しても、照準が朧げ。
ブライオンがそのタトゥーの為に、社会に受け入れられないという本作を重層的に見せる要素が活かされていない様に思う。
(ブライオンが復職を希望して断られるのも"FBIのリストに載っているから"だし、日雇い現場でも同僚に優しくされるカットが挟み込まれる。外面で判断される事を印象づけられる貴重なシークエンスなのに)

短編SKINでは短い時間の中でテーマに対する厚みや深みを与える、ある種の寓話性や教訓も込めることに成功していた事を思うと、そもそもアプローチが違うという点を考慮してフェアでは無いと思いながら、もっと偉大な作品になり得たのでは無いかという惜しい気持ちに駆られる。
柏エシディシ

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