映画漬廃人伊波興一

罪と罰の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

罪と罰(1983年製作の映画)
4.5
26歳の時に既にこんな処女作を堂々と撮りあげてしまうカウリスマキ。公開当時はまだ日本では知られていなかったでしょうがリアルタイムでご覧になった方々はオーソン・ウェルズ「市民ケーン」以来の(恐るべき子供)の出現に度肝を抜かれたことでしょう  アキ・カウリスマキ「罪と罰 白夜のラスコーリニコフ」

冒頭いきなり地を這う蟲が切断され、その場所が精肉工場であることにいささか鼻につく野心作が展開されるんじゃないか、と不安になりますがこの作品では既に確立されていたようでカウリスマキ特有の「登場人物、皆、無表情」を見渡せてすぐさま安堵します。
タイトルから明白ですが主要人物はラスコーリニコフ、ソーニャ、ポルフィーリに準(なぞら)えた三人です。
映画の中で起きる出来事は滑稽なくらい儀式じみており誰よりもそれを一番面白がっているのがカウリスマキ自身であるのだからドストエフスキーの物語が根底にあるにも関わらずどこまでも楽天的な余韻がフェードアウトごとに訪れます。
その作家的余裕は大家のような風格さえ漂わせこれが26歳の若者の手によって撮られていたいた、という事実に驚くのみ。
「ル・アーヴルの靴みがき」の時にも言及しましたがわが国の小津DNAは軽々とフィンランドの地に舞い降りたことに嫉妬と喜びを同時に噛みしめております。