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罪と罰のRのレビュー・感想・評価

罪と罰(1983年製作の映画)
4.1
あの何もかもがすさまじいハイテンションの大傑作、ドストエフスキーの罪と罰、22か23くらいのときに読んで、主人公と一緒に熱病にかかり、何日か寝込んだ。ドストエフスキーの小説はどの作品も読むとき必ず病気になる。ど迫力すぎて呑み込まれてしまうんだろうね。それを呑兵衛のすっとぼけ、カウリスマキがどう料理するのか、興味津々で鑑賞。話の筋も雰囲気もまったくちがうものになっていたが、これはこれで非常に興味深かった。まずオープニング、いきなりガサゴソとゴキブリ…を斧でザクッ、そこは豚の屠殺場で、おつむの天辺から若ハゲ進行中のシリアスマン、ラヒカイネンが肉をさばいている。あの斧、洗われることなくそのまま屠殺に使われるのだろうか、と悶々と考えながら見てると、その後、彼はあるお金持ちの男の家に侵入して、その男を鉄砲で殺害してしまう。ラヒカイネンが殺された男の物品を漁っているところに、女がやってくる。その男はパーティーを開くつもりだったらしく、女はケータリング会社の派遣で、準備のお手伝いにやって来たのだ。彼女の名はエーヴァ。もろの目撃者である彼女を逃してやった彼は、数日後、容疑者の1人として警察に呼ばれ、尋問を受ける。淡白でほとんど感情的な動きがなく、誰もが仏頂面な本作の中で、唯一急激なズームインがあり、ラヒカイネンの顔が汗で光っているこのシーンはとても印象的。そこには事前にエーヴァが呼ばれていて、彼が犯人か、ときかれたエーヴァは、いいえ、違うと答える。一体なぜラヒカイネンは男を殺したのか。なぜエーヴァは彼を犯人と明かさなかったのか。そこら辺を中心に話が進んで行く。とにかくラヒカイネンの行動が不可解で、自分が犯人であることを示すヒントをあちこちにわざと残そうとしたり、そうかと思えば、別の犯人をでっち上げる工作をしたりもする。ほとんど気持ちが読めないため、かなりいろいろ推測しながら見なければならないが、時々流れる場違いなほどパッショネイトでスウィートなロックチューンがひとつのヒントとなる。原作を読んでたので、多分こういうことかな?と思いながら見たが、全く違う作品として見ると、とても不透明。おそらくそこには実存的なモヤモヤが介在しているのであろうこってとは、全体の雰囲気から伝わってくる。エーヴァに関しても、最初はかなり謎めいているが、セリフで内心を吐露するシーンがあったり、多少の人生の事情が描かれるため、まだわかりやすい。よって、フォーカスはラヒカイネンに絞られる。あまり何も考えずに見ると、ポカーーン、となるに違いない。この感じはブレッソンの大傑作ラルジャンによく似てると思う。ぼんやりしてると完全に置いてけぼり食らう。音楽の感じはゴダールっぽかったような。ただ、激震と怒濤のドストエフスキーや、突き放し過ぎて逆に強烈なブレッソンと違って、やっぱカウリスマキらしいなってなるのは、ちょっとしたユーモラスなチグハグ感と、見終わったあとのスウィートで小さくまとまった感じ。何だかんだで結局そっちに話を持っていくんだねーってのが、嫌な感じなく演出できるのは、ある意味この人の真骨頂なのかもしれない。世界の映画の中でも、カウリスマキのフィムモグラフィの中でも、かなり独特な魅力のある一作になっているのではないでしょうか。また見たい。
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