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プリズン・サークルのnatalieのレビュー・感想・評価

プリズン・サークル(2019年製作の映画)
4.4
違和感があるかもしれないが、
見終えた後の感覚は、
残酷な環境におかれ、でも身勝手にも生きる人間の、どうしようもなさと人間らしさと美しさを同時に見た感覚。

嘘しかつけない少年がいた。アニメーションで物語のような詩的な切り取り方で始まって、次第にそれが1人の犯罪者でもある1人、いや4人の青年の現実とゆっくりと繋がってくる。でもそこで気づくのは、犯罪者が直面してきた社会の理不尽さや、過ごした幼少期や現実の過酷さだけではない。

もちろん、これは社会派ドキュメンタリーであって、島根の刑務所内で取り組まれているTC(Therapeutic Community=回復共同体)がなぜ再犯を半分にまで下げることができるのか、TCとは何なのかについて、4人の罪をおかした若者の話や変化を追うことで知ることができる。罪を犯した人がその罪や過去にどう向き合い、言語化し、生きようとするのか。

でもそこから見えてくるのは、罪を犯した人間とそうでない人間にある隔たりが、おそらく本質的にはそう大きくだろうということだ。彼らが置かれた過酷な環境や暴力の連鎖が、彼らに罪を犯させただけなのだろうと。加害者は被害者でもある
人間皆大なり小なり罪は犯していて、彼らの痛みが自分の痛みのようにも思えてくる。その罪にどう向き合うかは、他人事ではないのだ。

拓也が最後に打ち明ける言葉は痛烈で、印象的だ。

夜は寒いんです。
 
肉体的な感覚として語る寒さは、核心的なものではない。

自分の感情に蓋をすることでしか、生き抜く術はなかったのだろうし、自分に嘘をつくことさえ、本能的に身についてしまったのだろう。自分が涙できるときは、その自分に客観的に気づいた時だけ。

自分の感情をそのまま表現し言語化したことがないというのはなんと残酷なことか。

出所した後の彼の顔からモザイクが消える。どこにでもいる普通の爽やかな青年にも見える。それが周りで起きている現実で、皆それに気づかない。あるいは知らない風をしているのかもしれない。

罪を犯した人をただ切り離す社会ではいけない。規律や規則を守る習慣を恐怖でもって形式的に押し付けたところで、さらに人間としての感情を失っていくだけだ。社会から隔離された塀の中で、本当に必要なものはきっと対話なのだろう。円環の椅子で応答されていく自分の言葉。暴力より対話する影響力の大きさを見た気がする。
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