キナ

水曜日が消えたのキナのレビュー・感想・評価

水曜日が消えた(2020年製作の映画)
4.0
S(すこし)F(ふしぎ)な彼らのおはなし。
7つの人格が曜日ごとに入れ替わる。そんな「僕」の生活における悲喜交交、ちょっとした事件、未来のスタート。

多重人格を扱ったサスペンスかと思いきや、特殊な状況で生きる彼とその周りを巡るヒューマンドラマだった。
寄せる一方向の想いに胸がキュッと詰まり、終盤の変貌とたしかな選択にハッと目を見張り、これからの進み方にグッと温かい気持ちになる。

だんだん不穏な空気が生まれてくる中でストーリーも複雑になってきて、どうなってしまうのやらとハラハラできる。
しっかりとした着地点の形も好き。
現実味の無い設定なのに、この物語をなんだか近くに感じられた。
火曜日に想いを寄せる一ノ瀬のキャラが良かったのかもしれない。

7人の「僕」がいる中で敢えて「火曜日くん」を中心に置き、他の人格はあまり直接的には見せないつくりが面白い。
主人公を絞って見せることで、一つの身体で共同生活を送る彼の切ない境遇がより伝わってくる。
多重人格という特殊性よりも、「ハンデのある一人の青年」であることをひしひしと感じた。

さりげなく家の隅々で感じられる、他6人の濃厚な気配。それがまた面白い。
まるでシェアハウスのそれだな~と思いつつ。
付箋のやり取りで伝わるそれぞれの性格、マインド。
火曜日以外の描写が少ない中で、ほかの曜日はどんな人なんだろう、と考えていて、それがやっと形になって見えてきたときには微かに興奮してしまった。か、かわいい…kawaii…結婚したい…。

割れたバックミラーに映る鳥の映像が印象的。
劇場的な映像演出も何気ないシーンの端に映る演出もとても上手くて、観ていて心地良い作品だった。
監督の長編デビュー作品だとは驚き。今後の作品にも注目していきたい。
キナ

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