史実に基づいた物語なのでストーリーは分かっているはずなのに、最初から最後まで目を離せずハラハラしながら観られた。
これはクリント・イーストウッド監督の腕前なんだろうなあ。
リチャード・ジュエル。
正義感と紙一重の融通の効かない仕事ぶり、体制に迎合してしまう甘々なお人好しっぷり、己のダメさ加減は自分自身が一番分かっているという悲哀。
でもその融通の効かない生真面目な仕事ぶりのおかげで何人もの命を救い、そんな生き方がようやく報われたと思ったら、何の根拠もない偏見で英雄から一気に犯罪者へと転落。
唯一彼の事を認めていた旧知の弁護士とジュエルの関係は、甘い友情などではないが、そこには絆があり見ていてとても気持ちがいい。
キャシー・ベイツが演じるお母さんが、息子の無実をマスコミに訴える姿はこの映画の中で一番グッときた。
最後にジュエル本人が見せる毅然とした姿は本人の成長した姿を伺えて素晴らしい。
1つ気になったのはマスコミの描き方。
お母さんの会見で涙を見せる女記者の姿は、若干唐突な感じもあり、生ぬるいなあと感じた。
失点を穴埋めするために事実をねじ曲げるFBI。
おかしいのはFBIの中の人が一番分かってるのに、修正や謝罪が出来ず、矛盾したまま暴走するのは正に組織あるある。
そんな理不尽に巻き込まれて、ボーッとしていると気が付いたら体制の思うがままに犯罪者に仕立てられてしまうという恐怖。
これは決して他人事ではなく誰にでも起こり得る事なのは肝に命じておきたい。
あとプロファイル的にはいかにも犯罪者だけど実は無実のリチャード・ジュエルと、外見や内面は完璧でとても犯罪者とは思えないが、実はとんでもないサイコパスだったテッド・バンディは対をなす映画だなあと思った。
