岡田拓朗

リチャード・ジュエルの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.0
リチャード・ジュエル(Richard Jewell)

1996年のアトランタオリンピックで、爆発物を発見して多くの人命を救ったにも関わらず、FBIやメディアに容疑者と見なされた実在の警備員リチャード・ジュエルが軸になっている作品。

証拠がある程度ある中で捜査対象とされるのであればまだわかるが、証拠が全くない中でリチャードジュエル自身の人物像や所有物、育ってきている環境や背景、職歴などの情報と過去の事件との共通点があるといった憶測だけで、犯人であることが前提で進められていく捜査は言わずもがなおかしい。

それだけだとまだ表にならずに裏で進められるだけであるためマシではあるが、それがメディアに個人の欲望のためにリークされて、全く事実でもないことを報道され、英雄視されていたところから一気に極悪非道の犯人として扱われるなんて、想像しただけでも負の色んな感情が湧き立つ。

あの事件が起きたとき、それこそリチャードジュエル自身も命がけで、彼が亡くなっていてもおかしくない状況だったわけである。
そのような状況で勇気を出して行った行動に対して敬意も全く感じられないFBIの対応は、さすがに不愉快極まりなかった。

リチャードジュエルの地獄に突き落とされたあの数週間は、彼自身だけではどうもすることができないモヤモヤ感といたたまれなさが相まって、観ているこちらも本当に何とも言えない感情になる。

もし彼に頼ることができる弁護士がいなかったらと考えると本当に恐ろしい。
彼は国を司っている人たちに対して心の底から敬意を払っていて、おそらく言われたことを何でも言うことを聞いていただろうし、そのことで事実を思いもよらぬ形で婉曲され、犯人に仕立て上げられていたに違いない。
人の善意に突け込む悪意の最たる例であった。

まさかこんな普通に見たら犯人と思われるのがなぜかわからない状況の中で、こんなにたくさんの人がメディアに扇動させられ、まだどうかもわからない一人の人間をあそこまで責め立てることができるなんて、何でそんなことできるんだろうかと思う。

日本でも戦時中なんかは政府とメディアにより多くの国民が扇動され誤ちを犯してしまったこともあったけど、このように多くに影響を及ぼしかねない権力者のお互いが目指すところの利害関係が一致するときに起こる理不尽な扇動ほど怖いものはないなーと改めて思った。

このようなことは、決して今も全くないとは言えないだろう。
むしろ少しだけ漏れた情報からSNSで急速に拡散される今の時代の方が、メディアリンチ→SNSリンチと、より当人が追い込まれる時代になってきているような感じもする。

どんな情報であったとしても、仮にそれが正確な情報であったとしても、事実一つだけを見て過度にその人を追い込むことは誰にとってもプラスでないから辞めた方がよいのではと個人的に思う。

日本でもスキャンダルとか最近もまた色々出てきてるけど、そういうのに乗っかってSNSとかに、極端に追い詰めるような発信している人見るとなんか残念やなと思うし、ニュースやワイドショーとかでそこに対して、意味が全く感じられない議論してるの見るのも全然おもしろくないというか、何でこんなわかりきったこといつまでも議論してるんだろと思うし、そもそもそんな番組はあまり見る気にもならないから出たらチャンネル変えてる。

そんな考えもあってか、映画やドラマで主張することはあるにせよ、現実に起こる個人のことで、何か責めたり咎めたりすることを自分は極力避けてる。
そこを意図的に自制するために、本名でSNSをしているというのもある。
匿名だったら何でも思ったこと、際限なく吐いちゃうことができますからね。

でも逆にどこまでのことなら発信して、どこまでのことなら発信しないか、それらの対象も含めて難しいところであるのも事実ですよね。
あまりにも発信を自制しすぎると何も言えなくなってしまう。
それもよくないから、結局は人それぞれの価値観(真善美)に頼るしかないところが現状だと思うんだけど、その見境がない人が多い気がするからそれは危険だなと思う。

本作は、現代の情報の取り扱い方や発信において、処方箋みたいな形で大事なことを訴えてきているような感じがして、まさに今に必要な映画だなと感じた。
クリントイーストウッド監督は、間違いなく今必要な映画を届けてくださる。

最近だと3年A組を観て発信に問題意識を持った方なんかは本作を観るとよりそれを現実的な視点から深められてよいのではないかなと思う。

本作はかなりリアルで生々しいから、この辺りは一人でも多くの方に観て感じ取ってもらいたいなと思います。

P.S.
まさに身につまされるくらいのリアルさを伴った演技を見せるリチャードジュエル役のポールウォルターハウザーと母親役のキャシーベイツが凄い!
そして基本だらしないけど、揺るがない信念を持ち、やるときはやる、ビシッと言えるサムロックウェルがまたしてもかっこいい。
オリヴィアワイルドの胸糞悪い演技もなかなか!
岡田拓朗

岡田拓朗