静かなピアノの旋律と灰がかった画調、善悪や美醜ではない「人間らしさ」にひたすら向き合う様に、「ああ、イーストウッドの映画だなぁ」となんとも言えない安心感が込み上げてきました。
特に近年は「かつてこんな人がいた」「こんな事件があったんだ」と、イーストウッド自身が枕元で語ってくれているような温もりを感じさせる作品が多い気がします。
この作品が魅力的なのは、主人公が清廉潔白の良い人ではなく、心は優しいが行きすぎたり、欲に目が眩んで罪を犯してしまったこともあるような非常に人間味に溢れた「普通」の人だからだと思います。
彼を弁護するサム・ロックウェルのキャラも素晴らしく爽快で、2人の掛け合いに終始ワクワクさせられます。
キャシー・ベイツの演技も、まるで自分の母親のように共感させる説得力があり、ただただ感心させられました。
個人の人権を簡単に奪ってしまう権力とメディアの危うさに背筋が凍りますが、それと対比されるように人と人との繋がりが温かく描かれているのも印象的。
ほろ苦くも優しいラストは、人生を達観したイーストウッドならではの静謐な空気に包まれていてどこか心地よかったです。