素晴らしかった。今年観た映画では3本の指。これまで観た（個人的に苦手な）クリント・イーストウッド監督作品では一番かも。彼特有の淡々過ぎる作風でなく、ちょうど良い演出でシンプルにわかりやすく冤罪を描いていたのが良かった。
96年アトランタ五輪開催中の野外コンサートで起きた爆破テロ事件で、爆弾を最初に発見して被害を比較的小さく抑え、一時はヒーローになりながら、真面目すぎる性格や太った容姿が災いし、一転して事件の容疑者にされてしまった警備員リチャード・ジュエルの実話ベースのお話。
主要キャストの人物像や関係性が、冒頭に簡潔ながらきちんと説明されてたのが、話がわかりやすくなった理由かな。その後もまったく無駄も不足もない展開で、テンポも良く、最後まで完全に引き込まれた。
主演の俳優は、主人公の実直で不器用、悪く言えばウザい人柄をとてもうまく演じてたと思う。いつもは軽薄な役の多いサム・ロックウェルが、容疑者にとことん寄り添う弁護士を演じ切ってたのも好印象。オリビア・ワイルドも、美人なだけでなく演技の幅が広い女優さんなんだと実感。
最後はちゃんときれいに終わってたし、ホントによかった。
残念なのは、特ダネ記者の描き方が浅かったこと。普通の記者なら、テロ現場であんなことしてる暇あったら、さっさと現場の人たちの声取るから！規制線はられる前に現場の写真撮りに行くから！そして最も納得いかないのは、容疑者と弁護士が会社に乗り込んできたとこ。あんなボケっとしてないで、周りは写真撮りまくって、記者はインタビュー申し込もうよ！
しかも、この女性記者が枕営業でネタを取った事実はないらしく、公開後に論争になったみたい。冤罪を描く映画が冤罪を生み出したようで皮肉。
その辺を差し引けばとてもよくできた映画でした。
それにしても冤罪は怖い。FBIが主人公を騙して書類に署名させようとするとことか、弁護士の目を盗んで声紋を取ろうとするとことか、マジで？って感じ。捜査機関の誤った筋書きにマスコミが加担するのもオヤクソクだけど酷かった。日本の最近の事例で言えば、松本サリン事件の河野義行さんや、厚労省の村木厚子さんみたいな感じか。逮捕前の段階で容疑者を実名報道するとか、少なくとも今の日本じゃあり得ないけど、ロス疑惑の時はあんな感じだったような。
しかしアトランタ五輪でこんなテロがあったなんて、まったく記憶になかった。恥ずかしい。
