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雨月物語のmitakosamaのレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
4.2
溝口は完璧主義のパワハラ監督というイメージなので、作家としてはあまり好きではないのだが、作品は素晴らしいから複雑だ。特に今作は文句無しに良い。

原作は言わずと知れた上田秋成の『雨月物語』から。雨月物語は吉備津の釜が有名だけど、今作は浅茅が宿と蛇性の婬を纏めたもの。といっても結構アレンジ入っていて原型留めていないよな。

賤ヶ岳の戦いで羽柴秀吉と柴田勝家が争っていた時代。
戦が激化し琵琶湖近辺の貧しい農村を飢えた雑兵が村を襲う。戦渦に巻き込まれる2組の夫婦の物語が描かれる。
一つは焼き物職人で、戦火に託つけて陶器を売り大儲けをしようとする夫と、制止する妻。
もう一つは戦で武勲を上げて出世しようする夫と、やはり反対する妻。

焼物屋は公家風(?)の女に見初められ囲われる。この女に京マチ子。エキゾチックさと不気味さと可愛らしさが混在した、魑魅魍魎を匂わすキャラクター設定が巧みだ。で、当然そんな上手い話は無い。

侍になろうとした男の妻は道にはぐれ雑兵に襲われてしまう。一方で夫は武具と槍をかき集め、どさくさに紛れて武勲を上げ出世していく。だが、帰路の途中、女郎屋で見た女は変わり果てた女房だった。
翻弄される女性を描かせたら溝口の右に出るものはいない。何とも言えぬ悲哀が心を打つ。

焼物屋は自分を囲む美女が妖の者だったとわかり、逃げるように元の家へ。
妻との再会を喜ぶが、既に亡き者だった。

この死んだ妻との再開シーンも素晴らしい。喜び眠る夫の側で座る妻の最後、戸の隙間越しに朝の光が段々指すシーンの切なくも美しいことよ。溝口と言えば長回しのロングショットも定番だが、この終盤のシーンは正に真骨頂だ。
亡者である妻にとっては、朝が来たら夫と真の別れになる。夫を見守りながらその夜を過ごすシーンのなんと美しいことよ。(これが今の映画なら、説明過剰にな感動ポルノになるだろうに)

溝口の溝口らしさが最も詰まった1作。
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