薔薇

雨月物語の薔薇のレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
5.0
溝口健二監督。
欲望に走る男とそれの裏で苦しむ女性を描いた時代劇。

溝口健二監督の代表作。彼の作品は初めて。そして、これは腰を抜かす作品。黒澤、木下以前という風潮は伊達にならない。

フェミニズム監督として有名な溝口健二の所以が分かる作品。欲望に走る夫を描くカットの次のカットですぐに妻が強姦されたり、落武者に殺されたりと女性が散々な目に合う。しかし、彼女らの人間像がしっかりしているのが注目点。彼女達のしっかりとした忠告を聞かない男性達はまさに欲望の塊として描かれる。

とてつもないワンカットワンシーンが見られる映画。特に終盤の源十郎が、我に戻り家に帰ってきたシーンが凄い。ワンカットの中で人間を蘇らせ、そしてその人間が死んでいる事まで観客側に認識させる。『人情紙風船』のラストシーンを思い出させる、映像で全てを語るサイレント映画出身者の力が存分にみなぎるシーン。

そして、音も映像に負けない、いや同列に印象的。終盤の死んだ妻のモノローグ。「死んでもあなたのそばにいます」と働く源十郎に重なるそれの物悲しさ、虚無感。そして何故か出る”兵隊”という単語。ここで初めて戦争映画としての面に気づく。時代劇だが、現代劇。

無声映画世代を経験した監督の映画はとにかく末恐ろしい。
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