Gewalt

雨月物語のGewaltのレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
4.6
戦乱と戦乱がもたらしたもの、それぞれの死に魅入られる二人の男、そしてその妻達の物語。男は白昼夢に振り回され、男の不在は女の悲劇を招いていく。

溝口はその長回しを以てしばしば語られるが、その真価を存分に見せつけてくれる作品だった。
背景の細部まで気を配られた人物やセットの配置、静止から躍動に至るダイナミズム、運動の停止が見せる緊迫感と一点への強調、それらが長回しの中に充溢し蠱惑的な映像を生み出している。
光や音楽の持つ効果に触れずに済ますこともできない。緊迫、幻想、焦燥、急転……光と音楽はそれぞれの場面に適切なトーンを与えている。
一つ例を挙げてみよう。物語のある場面、主人公の男はある人物との押し問答を強いられる。長く回されたレンズの向こうで、二人は焦れに焦れた蠢くような演技を見せる。その応酬の緊張が極限に至った時、男は躍動し舞台を駆けずり回る。舞台を照らす燭台を倒し、場面の急転と軌を一にしてスクリーンは影と闇を映し出す。その間鼓笛三味線の音色は見るものの心を不安と恐怖へと絶えず駆り立て続けている。

細部まで拘り抜かれた90分の映像は時に幻想的で時に暴力的な映像美を我々に見せてくれる。巨匠が巨匠たるに必要な、卓越した独自性を人はこの映画に見出すであろう。
Gewalt

Gewalt