SHOHEI

ノンフィクションW 大林宣彦&恭子の成城物語 [完全版] ~夫婦で歩んだ60年の映画作り~のSHOHEIのレビュー・感想・評価

4.0
映像の魔術師こと大林宣彦と彼のパートナーでありプロデューサーを務めてきた大林恭子の二人三脚の人生を振り返るドキュメンタリー。当時大林宣彦は癌による余命宣告後で、製作陣は遺作である『海辺の映画館 キネマの玉手箱』製作に密着。一方、大林宣彦が父に宛てた手紙や掘り起こされた恭子とのプライベートフィルムを交え、恋人、そして夫婦として歩んできた60年の人生を俯瞰する。大林作品を見たときに目につくのがスタッフクレジットの大林恭子の名前。その功績に表立ってスポットが当たることは少なかったように思える。劇中で言われているとおり、彼女の名前がクレジットされるのは82年の『転校生』以降。その大林恭子は宣彦とほぼ同年齢で戦争を体験した最後の世代。成城大学で出会い、結婚し、プロデューサーとして、また大林宣彦の思想の最も良き理解者として彼をバックアップしてきた。劇中で明かされるプロポーズの思い出はロマンチック。若かりし2人のプライベートフィルムを見た宣彦監督が「青春だったなぁ」とつぶやく場面に、当時の空気感を見事に閉じ込めてしまうフィルムのマジックを感じる。売れない作家だった自分と一緒になってくれたことが嬉しかったと本作で語っているが、インタビュー本でも同様の心情を吐露しており宣彦監督自身相当幸せな人生だったのでは。一方大林恭子も「お金のことはあまり考えなかった」と語っており、固い絆で繋がっていたのだなと。代々医師の家系だった父の後継ぎを断り、映像作家の道に進んだ話も感慨深い。「やりたいことができる世の中は平和の証だ」と言って若き宣彦監督の背中を押したのは他でもない父。父は戦争によって研究者の道を諦め医師として出征をした悲壮な半生の持ち主。人生を好きなことに捧げられる幸福さを知っていたから出た言葉だと思うと、近年監督が使命的に描いてきた平和実現への想いが一層染みる。また本作の収録中体調を崩してベッドで寝込んでいた宣彦監督が「映画を作り終えるまで死なんぞ」とカメラに繰り返す場面は涙が出る。これだけ強い想いで映画に魂を削る姿を見ると、易々とした気持ちで彼の作品を見ることができないと戒められた感覚になる。ドキュメンタリーに映される監督の姿は以前と比べると確かに弱々しいが、内に燃える作家性、それに賭ける生半可ではない情熱に非常に圧倒される。
SHOHEI

SHOHEI