そーいちろー

夏時間のそーいちろーのレビュー・感想・評価

夏時間(2019年製作の映画)
4.0
ヤンヤン夏の思い出を彷彿とさせる傑作。本当に筋らしい筋はなく、映画的な意味での「劇的」なことは何一つ起こらないが、普通に暮らしている人たちが経験するであろう出来事が丁寧に描かれ、その瞬間の機微を鮮明に映し取ったカメラにより、私達自身の経験と作中の主人公家族の日々がオーバーラップし、そこには「映画」という優れた芸術のフィルターによって我々の知覚領域が更に拡張し得るという法悦を得られる。映画的体験とは、まさにこの夥しい現実がスクリーンに投影される瞬間に身を委ねる事にあるのではないかと思えた。

構成として、主人公の父親と妹、主人公は姉で弟がいる関係性や、離婚した母親への愛憎、思春期の恋愛とコンプレックス、そして肉親の死に向き合う瞬間等、そういう積み重ねが本当に細やかに描かれていた。

ひょうきんものとしてだけ描かれている弟にも辛さがあるんだということも、描いてくれていたと思う。傑作。
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