1945年にエジプトで発掘され“二十世紀最大の考古学的発見”と呼ばれた古代キリスト教文書「トマス福音書」をモチーフとする知的宗教ホラー。主演は「6才のボクが、大人になるまで」(2014)のパトリシア・アークエット。
ピッツバーグの美容師フランキーの両手首に不可解な深い傷が発生した。バチカンの “奇蹟認定調査員”アンドリュー神父は、無神論者であるフランキーに起きたこの怪現象は聖痕(イエスが磔刑の際に受けた5つの傷)とは無関係だと判断するが、彼女は無意識に謎の文字を壁に書き始める。それは古代アラム語であり現代カトリック教会の在り方の否定につながる内容だった。。。
かなり面白かった。「ダ・ヴィンチ・コード」(2006)に超常現象を加えてホラー風味にしたような一本。本作で正統性が謳われる「トマス福音書」に対し、バチカンは“異端である”と公式声明を出しているため、欧米で問題作扱いされたのは当然と言える。キリスト教信者ではない自分にとっては、知的好奇心と既成概念への疑問がくすぐられて楽しい鑑賞だった。
同年の「奇蹟の詩 サード・ミラクル」(1999)と同じく物語の始まりは“血の涙を流すマリア像”で、信仰に迷う奇蹟認定調査員が派遣されるのも同じ。20世紀末らしいテーマだったのだと思われる。
終盤、カトリックの枢機卿がヒロインに「悪魔祓い」をしているシーンはキリスト教的教養が無いと理解しにくいかもしれない。ヒロインに憑依しているのは神託を受けたアラメイダ神父の霊であり、カトリックが「悪魔祓い」と呼んでいるのは「肉体と憑依霊を分離させる儀式」という設定である。宗教的解釈についてはDVDに収録されている監督のコメンタリーが非常に解りやすかった。
なお、ラストの全面文字テロップに日本語字幕がついていなかった。「トマス福音書」について説明するもので「バチカンはこの福音書を認めず、異端としている」と書かれている。何かしらの配慮で日本語字幕を省いたのだろうか。
DVDには劇場公開版とは違う改変前のラストシーンが収録されている。個人的にはハリウッド的な公開版よりも良いと感じられた。
※何度も登場する“鳩”は、キリスト教の常識として“聖霊”を象徴している。神の意志が鳩の姿となって現れるとされている。