若草

はなれ瞽女おりんの若草のレビュー・感想・評価

はなれ瞽女おりん(1977年製作の映画)
5.0
冒頭からタイトルが出てくるまででもう引き込まれて、傑作であることを確信した。
最初の数分でとんでもなくのめり込んで持ってかれる映画はそのあとも最後まで素晴らしい。

もうこういう映画は撮れないだろうな。
扱っているテーマや用語が今の時代に合わないということももちろんだけど、そういう風にしか生きることを許されなかった者たちの本物の貧しさや寂しさはもう今の映画には出てこないなと何度も思った。
ものとしてはなんでも画面に出せるようになっても、全く同じ場所で同じセットを作って同じ動きをしても、こんな貧しさや寂しさの質感は現代の綺麗な画面では再現できない。
例えば着物のほつれ、ぼろぼろの小屋、草鞋を編む手、おばあさんの顔の皺、おじいさんの歯が欠けた口、真冬の畳の上の素足。
形は用意できても、そこに説得力を持たせることはもうできない。
この映画にはそれがちゃんとある。
(これに限らずこの時代辺りまでは、ということになるけど)

ずっと目を瞑ったまま三味線も弾く岩下志麻の演技が圧巻だった。
生まれたときから失い、奪われ、尊厳を踏みにじられる人生。
何をされても達観したように微笑んでいるのが美しく、かえって悲しい。
終わりが来るのが分かっていても2人の旅が永遠に続くように願ってしまう。

原田芳雄演じる謎の男の雰囲気もすごく良かった。
野生味溢れる肉体と、おりんを素直に大切にする優しさと。
この人はこの人でたくさんの見たくないものを見て生きてきたんだろうと思わせる佇まい。
それからなんといっても樹木希林。
この頃から演技力凄まじかったんだな。
強烈なインパクトがあった。

たくさんの出会いと別れが繰り返されるけど、出会うのもあっという間なら別れもあっけないのがまた切ない。
樹木希林との別れ方が衝撃だった。
一瞬で助け合う関係になって、ずっと旅してきたのにあんなにあっけなく…
この時代、生きることはなんて儚いんだろう。

ラストはかなりショックだった。
あれだけで、その後のおりんの生涯がどんなものだったか見えてくる。うまいなぁ。

カメラワークも素晴らしかった。
引きの構図がどれも美しくて。
善光寺のところの見物客に紛れながら参拝するシーン、印象的だった。
固定された画面の中を人々が行き交う撮り方もよかった。

かつてこのような人々が生きた時代があったということを私たちはやはり知っていなければいけない。
若草

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