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はなれ瞽女おりんのcinemaiquotのレビュー・感想・評価

はなれ瞽女おりん(1977年製作の映画)
4.2
母に捨てられ身寄りなく、盲目ゆえ瞽女となり、長じては瞽女の家から出され、はなれ瞽女となったおりん。
下駄屋を営む母と貧しい暮らしをし、貧しさ故に金持ちの兵役逃れのために代わりに徴兵され、そして脱走兵となった男。
このふたりが出会って惹かれ合う。互いに身寄りもなく、ひとりぼっちだからと。

厳しいながらも美しい北陸の自然描写の背後で、岩下志麻演じるおりんの屈託のない語り。相当に辛い目にあっているはずが、仏のような笑みを浮かべるその姿。
そのおりんをひたむきに愛し、他の男のように一時の情欲のために決しておりんを抱こうとしない、原田芳雄演じる男。

その孤独と愛を代弁するかのような美しい撮影。自然の風景も、善光寺などでの人混みの描写も。どこかに希望があると思わせるような優しさも包みながら。

盲目のおりんと男の、房の扉の小窓を介しての最後の面会。最後に男が嘘をついていたと告白する。おれには身寄りがないと言ったが、実は母がいる、赦してくれ、と。おりんは言う。あなたにお母さんがあっても何もおかしくはない。
そして男は憲兵に引かれていく。
開いた小窓。小さい窓でも、大きい窓でもおりんには関係がない。男の心を、自分のことをひたむきに想い、大切にしてくれたその心を見ることのできたおりんにとっては。

男を失ったおりんは、自分の母の所在について聞かされていたことを頼りに、母を尋ねる。しかしそこで聞かされたのは母の死だった。

背後のトンネルの闇の中に、測量器だけが映し出される。印象的な暗転だ。
どこかに母が生きている、そのことがおりんを支え続け得たのかもしれない。彼女を愛した男の存在とともに。しかし自分を愛おしんでくれるはずの存在がもはやどこにもないと知ったとき、おりんはもはや自然の中で屍となるほかなかった。
ラスト、穏やかでうららかな風景の中に映し出されるおりんの乾いた骨はあまりに非情な自然と現実の姿を思い知らせる。

自然と人生を見事なカメラと演技で見事に融合させて描いた名編と思う。
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