KnightsofOdessa

ヴィタリナのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ヴィタリナ(2019年製作の映画)
4.0
BIFFレポート①[闇の世界、止まった時間] 80点

墓場の高台の間を縫って歩く10人ほどの人々。真っ暗闇から出てきて画面から退場する。前作『ホース・マネー』から5年が経ち、同作でヒロインを演じたヴィタリア・ヴァレラを主演に迎え、夫の死を知ってカーボヴェルデから飛んでくる寡婦についての物語を展開したペドロ・コスタの最新作。ジョー・タルボット『Last Black Man in San Francisco』やダミアン・マニヴェル『イサドラの子どもたち』を押さえて最高賞である金豹賞を受賞した。

映画は常に闇の中にある部屋に光が差し込んでいる状態で進んでいく。昼であれ夜であれ、真っ暗な部屋がメインとなるのだ。人物たちは互いの顔を見ることなく自身の物語を語り、ヴィタリナの亡くなった夫を埋めた"三日前"という指標が徐々に数を増やしていく以外に時間を知る術がない。こうして永遠まで引き伸ばされた時間の中で、夫の死を信じないと語るヴィタリナと、神父として信仰を失ったヴェントゥーラ、そしてヴィタリナの夫の最期を看取った若い夫婦の物語が断片的に語られる。"生"と"死"すら入り交じるような不思議な空間で、ヴィタリナはカーボヴェルデで夫と建てた家について思い出す。ポルトガルから帰ってきた夫と共に45日で作り上げたという小さな家が、彼女の中では最も新しい夫との想い出なのだ。

やがて、闇の世界で時が止まっているような面々の中で唯一朝日という形で"光"を見た若夫婦の妻マリナが死を迎えることで、全員の時間が動き始め、何日前になったかも曖昧になったヴィタリナの夫の"葬儀"を別の形で繰り返すことで、映画は徐々に光を取り戻し、太陽光の下で作ったカーボヴェルデの家を思い出す。時間軸を過去に戻すことで、唯一の指標すら失って、時間そのものも曖昧になったのだ。映画は時間から解放され、幸福の中に沈んでいく。

※現地レポート
到着した日の夜に観たため、個人的な釜山映画祭のスタートを宣言する作品となったが、個人的には満足した。私は片側のふさがっている左端のブロックの通路側に座っていたのだが、その列の全員が私よりも後に入って、私よりも先に出ていった(しかもエンドロールより前に)。会場は非常に大きく、満席だったにも関わらず、エンドロール中に帰った人も含めて明るくなったときには劇場もガラガラだった。残ったのはコスタファンが多く、上映終了後はいろいろな国の言語で今見たものは何だったのかを議論していた。上映中は鼾まみれで、静かな映像なのにかなり観客側がうるさかったように思った。日本ではこんなことないようにしたいっすね。
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