ヨーク

ジェントルメンのヨークのレビュー・感想・評価

ジェントルメン(2019年製作の映画)
3.9
ガイ・リッチーはいつ振りだろうと思って彼の作品リストを確認したら『アラジン』以来だったので直近の作品もちゃんと観てたし何だったら数本を除いてほとんど全作品観てたので実は俺ガイ・リッチー大好きだったりするのか? と初めて意識してしまったがまぁ好きか嫌いかでいえば間違いなく好き寄りではある。多感な思春期の頃に『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』と『スナッチ』で洗礼を浴びたので三つ子の魂百までじゃないが10代の頃に好きだったものはやはり今でも好きなのだ。ちなみに当時は『トレインスポッティング』も同世代に強烈な影響力を持っていたし、イギリス発の若い世代に向けたお洒落で自嘲的な皮肉アリで複雑な脚本のクライム群像劇がウケていた時代だったのかもしれない。単に俺が好きだっただけかもしれないが。
で、本作『ジェントルメン』も予告編だけ見ると大体そんな感じなのであるがそれを最初に見たときは正直がっかりもした。昔撮った杵柄的な感じで手癖で俺みたいな昔からのファンを満足させるだけの縮小再生産的な映画に見えたからだ。
お話はこうだ。ロンドンのマリファナ販売を牛耳るギャングのボスが引退するにあたり自らのシノギを500億で譲るということになったのだが、そのマリファナの栽培や流通といった闇の利権を巡って悪党どもが暗躍し始める…といった感じである。う~ん、原点回帰といえば聞こえはいいが、そういうのもう散々やったよね? という部分もあるのでまたそんな感じかよ…と思ったわけなのである。北野武の『アウトレイジ』の予告編を最初に見たときのような感覚だったわけだ。しかし『アウトレイジ』が予想以上に面白かったのと同様に本作も中々に面白かったので良い意味で裏切られた感はある。
面白ポイントは大まかに分けて二つあるのだがそのどちらも主人公の設定に関することだ。まず一つ目はマシュー・マコノヒー演じる大麻ビジネスのボスがまだ肉体がガタガタになり始める前の中年と老人の間くらいの内に悠々自適な引退を考え始めるということで、主人公の年齢がはっきり出たかどうかは覚えていないのだが50歳を少し過ぎたくらいのガイ・リッチーはその主人公に自分を重ねているのであろうというところが面白い。というのもまぁ、自分のヤクザビジネスから綺麗に足を洗って後は遊んで暮らしたいとマシュー・マコノヒーは思っているわけだが当然そんなに思い通りに行くわけはなく色々なトラブルが起こるわけだ。で、結局静かに引退したいという思いとは裏腹にマシュー・マコノヒーはヤクザビジネスの最前線に立たざるを得なくなるし時には自ら銃を握ってその引き金を引かざるを得ない場面も出てくる。まるでいい年こいて映画業界でそれなり以上に成功してもまだクライム群像劇を撮らなきゃいけないガイ・リッチーが自身を投影しているようではないか。本当は『コードネーム U.N.C.L.E.』の続編を撮りたい(というか俺が観たい)のにまだこんなギャング映画から足を洗えない! という自嘲と皮肉が垣間見えるようだ。『ロック、ストック』とか『スナッチ』では野心溢れる若者を描いたのに今はくたびれたおじさんが主役なんだよね。泣ける。
あともう一つの面白ポイントは監督が主人公に自身を投影しているというのとは真逆で、実は主人公のマシュー・マコノヒーはアメリカからの移民なのだという設定が凄く面白かったですね。主人公に対して自身を投影している部分と全く剥離している部分が共存していて実に面白かった。この映画、基本的には主人公が握るマリファナビジネスの利権を怖いもの知らずな若者たちや中華系のギャング(その中でも世代間抗争のようなものはある)から守り抜いて、裏社会ではあるがルール無用で襲ってくる奴らからロンドンのマリファナビジネスを保護するという極めて保守的な物語構造になっているんですよ。ギャングの王が引退を決めたら外敵共が跳梁跋扈し始めたので正当な権力を持つギャング王がそれらを討伐するというお話です。そしてそれがイギリス紳士の流儀だ、といわけだ。さながらアングロサクソンと戦ったアーサー王のようでもある。ガイ・リッチーもアーサー王の映画撮ってたしな! それは観てないけど!
という感じで本作は主人公がイギリス裏社会の秩序を外敵から守るというある種のダークヒーロー的英雄譚ではあるのだが、上述したようにマシュー・マコノヒー演じる主人公はアメリカ人なんですよ。もちろん設定上だけでなくマシュー・マコノヒー自身もアメリカ人です。何でわざわざそんな設定にしたのかって考えると面白いですよね。何でなんでしょうね。多分だがこれも、現在のイギリスに真のジェントルメンなどいないという強烈な皮肉なのではないだろうか。本作の脚本がいつ書かれたのかは知らないがイギリスがEUから脱退した理由の一つとしてよく挙げられる移民問題に対する姿勢とかが本作に大きく影響してんじゃないかなという気はする。
外部がイギリスを脅かすことは許せない。だがその外部と渡り合えるようなジェントルメンは今この国にいるのだろうか、まぁいないよね、っていう皮肉と自嘲たっぷりなイギリスンジョークが本作の根底にあるような気がする。
その二点が映画業界人であり生粋のイギリス人でもあるガイ・リッチー自身の内部と外部を描き出していて、予告編の印象よりもずっと面白い映画じゃねぇか…となったわけである。
もちろん普通にギャングもののクライム映画としても十分に面白かった。特に役者陣のハマリ具合と軽妙なセリフの応酬は素晴らしい。相変わらずって感じである。個人的にはとあるヤク中の娘を巡るシーンは本職のギャングとチンピラの若者との対比が面白かったなぁ。
ガイ・リッチーまだまだイケるな…となったので早急に『コードネーム U.N.C.L.E.』の続編に取り掛かってほしいですね。面白かった。
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