みかんぼうや

ジェントルメンのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ジェントルメン(2019年製作の映画)
3.4
【未だ逃れられぬ“ロック・ストック・トゥ・スモーキング・バレルズ”の呪縛。】

大学生の時に初めて「ロック・ストック・アンド・トゥ・スモーキング・バレルズ」(以下LSTSB)を観た時の衝撃は今でも忘れられません。自分を“ミニシアター系”映画の魅力に引き込んでくれた決定的作品。それからしばらくの間、私の中で、デビュー作でこんな作品を創ったガイ・リッチーは“神”でした。

その後、超期待の中で「スナッチ」を観て、映像はよりスタイリッシュになり、内容も面白かったものの、LSTSBほどのパズル的な脚本の魅力を感じず、やや二番煎じ的でイマイチ没入できなかった私。実はそれからというもの、ガイ・リッチー作品にはなぜか手が出なくなっていたのです。

そんな中、本作は“ガイ・リッチーここに復活!”という声が多く聞かれる作品だったこともあり、かなり久しぶりに彼の作品を鑑賞しました。

まずはもうLSTSBから20年以上経っても色褪せない、いやむしろより洗練されたスタイリッシュな映像。「ああ、ガイ・リッチー作品を観てるな~」という安心感。クセのある登場人物たちも良し(そして超豪華キャスト!)。

しかし、作品全体としてLSTSB的な後半の伏線回収やどんでん返しはありつつも、どうしても初めてLSTSBを観たときの、あの難解なパズルのピースがピシャリと全て組み合わさった時のような爽快感は味わえず。

どちらかというと、フレッチャーを語り手に過去を振り返る見せ方や小刻みな場面の切り貼りによる時間軸のズラしなど、「スナッチ」同様、シナリオそのものの展開よりも、これでもかというスタイリッシュ演出の連続で強引に押し切られた印象がが強く残りました。

私の中では、LSTSBも伏線回収があってどんでん返しがあるけれど、見せ方自体は意外と正攻法で、本作のような過去に起きた出来事や狙った派手でお洒落な映像を挿し込んで我々の脳を刺激しようとする演出は少なく、演出は意外と地味で(それでもお洒落なのですが)、時系列的にも同時並行で起きる事件が最後に一つにまとまる脚本自体にLSTSBの魅力が詰まっていると思いました。

・・・と、ここまで書いて改めて思ったことは、私は相当LSTSBの呪縛に囚われているのだということ。結局、あの時のインパクトを求めすぎるあまり、常にそれと比べてしまい、その後の作品の個性にちゃんと目を向けていないのだな、とこのレビューを書きながら反省しました。

逆に言えば、これがガイ・リッチー作品でなかったら、LSTSBと比較することなく、より純粋にスタイリッシュで展開も面白いクライムサスペンス、としてもっと高い点数をつけていたのだと思います。それだけ、彼のデビュー作が私にとって強烈であり偉大な作品だったということでもあるのです(これはM・ナイト・シャマランにも共通していますが)。

とはいえ、久しぶりにスタイリッシュな映像とテンポの良い展開による“ガイ・リッチー体験”ができましたので、これからも呪縛に囚われ過ぎず、新作に期待していきたいと思います。
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